六時間目 臨海学校

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 青い空、白い雲、広い海。海に白い線を引くように、波をたてながら船は進んでいく。 あれれ……おっかしいぞぉ~?臨海学校って聞いてたんだけど。何故か俺は船の上にいる。それも、ビルのような大きさの超豪華客船に乗っている。海で泳ぐんじゃなくて、このお坊ちゃま金持ち無駄使い学園は海の上の船の中で水泳の合宿をおこなうらしい。ああ、無駄遣いの教科書があったのなら1ページ目はこれを乗せてやる。もしくは貴族様のお遊び辞典1ページ目。 「お、お客様。大丈夫ですか?何かご気分でも?」 テラスにいた俺に、乗務員の男性が心配げに話しかけてくる。その格好もまるで執事のように黒ベストに七三分けと整えられていて、この客船の客層が伺える。まぎれもなくVIPしかいないんだろう。 「いえ、全く揺れているようにも感じませんし、至極快適な船旅です。ありがとうございます。」 「こちらこそこの度はご利用いただきまして誠にありがとうございます。まさか、貸し切っていただけるだなんて。」 「はは………僕にお礼なんて言わないでください。僕は乗せてもらっただけですから。」 いやほんとに。礼を言われる筋合いがなさすぎる。この船はおおよそ1500人乗れちゃう大型客船だってのに、今回乗ってるのは水泳部と合宿に招待された強化選手数名、それからお目付け役として生徒会から俺と皐月くん。あと教員を含めて40人。それに加えて…… 「せんちゃん!あっちウォータースライダーあったよ行こ!」 「せんちゃん!あっちにはジェットバスもあったよ行こう!」 同級生で二年の生徒会総務の二人はキラキラと輝く笑顔で俺を引っ張った。ダークブルーのセミロングの髪でちょっぴり背が高いのが兄の湯灯(ゆとう)由真(ゆま)。ミルクブルーの髪を背中の半分まで伸ばしているのが弟の湯灯(ゆとう)旋真(せま)。無邪気ですこと……と思いつつ、この二人がこの船のオーナーであるのだからなんだか不思議な気分だ。 「はいはい。お二人さん。ちょっと飛ばしすぎ。休憩しなよー」 さっきの従業員の方が丁度よく持ってきたドリンクを、二人に手渡す。 一口飲んでから由真はジュースのストローをがじがじと噛んだ。 「なぁーにぃー由真。それ嫌いだったのー?」 「うーん僕あんまり好きじゃないかも旋真ー」 「じゃあ僕が飲むよーだからストロー噛むのやめなってー」 「ごめんありがとうー代わりに旋真にお菓子あげるからね」 仲睦ましい。これが同級生とか思えない。この二人は今回の船の提供者で、『え⁉合宿⁉楽しそう』と言うノリでついてきた。まあ彼らは二人で揃うと不安ではあるけど無差別テロは起こさない。起こすのは………あっちの方だ。 目をやれば、その先には人だかり。 「なあ!このフルーツ全部食べていいのか⁉」 口いっぱいにマンゴーを無邪気に頬張るのは、重たい前髪にいつも通りに瓶底眼鏡の王道こと笹ヶ峰爽だった。
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