六時間目 臨海学校

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豪華客船というのは、実質ひとつの街だということを今回初めて知った。俺が知ってる船ってそこそこ大きいフェリーとかなので、冷静に見えて普通に困惑している。 レストランが和洋中他で4つ。カジノにショッピングモール、映画館、大ホール、郵便局、チャペルなんかまである。何だこの規模感。お客様より従業員の方が明らかに多いのだ。 「こんなに船内設備充実してるとどうにも船だということを忘れるね。」 「そうですね……僕もこのレベルの船は久々です。」 久々ってことは何度か乗ってるんですね鴇くん。金持ち学園のお坊ちゃまと庶民の違いをしっかりと自覚する。 休憩室と書いてある部屋にはなんとなく大勢が集まっていた。いわゆるリラクゼーションルームらしく、ヨガマットやクッションで構成された部屋に、泉璃、鴇、風見、湯灯双子の生徒会メンバーに加え、水泳部の部員が数名いた。 「外が雨なのに全く揺れないのはさすが湯灯家の船ですね。」 「嵐の中の航海でも平気ー」 「竜巻の中でも大丈夫ー!」 双子は嬉しげにクスクスと笑う。外を見れば荒れた海。しかし運行には全く問題ないのだそう。みんなでのんびりレモネードを飲んでいたところ。 「大変です!!」 駆け込んできたのは顔を真っ白にした水泳部部長だった。 「どうしました?そんなに慌てて」 不思議そうな顔をした皐月に息を切らした水泳部の部長は何やら封筒を取り出した。 「こ、これ。俺の部屋に、入って、入ってて。」 ぐしゃぐしゃの紙をどうにか俺は受け取る。鴇君に部長さんを落ち着けてもらいながら、紙を広げると。 「なに……これ。」 『警告。 湯灯兄弟の兄を誘拐する。 抵抗するようであれば、誰であれ殺す。 今宵12時に攫いに行く。』 そこにはパソコンで打ち出されたであろう明朝体で書かれていた。 「……これはいつ見つけました?」 「ついさっきで、です。俺の部屋の郵便受けに、入ってて。どうしていいか……」 3年生なのに完全に怯えて混乱しているようだった。どうしたのだろうと覗き込んだ皐月くんは口を押え、鴇くんはピリッと引き締まった表情をする。 「脅迫状ですかね。……しかし妙だな。」 鴇くんは目を細める。それに俺も同意して頷いた。 「うん。普通脅迫って、相手を拐ってからするもんじゃん。自分が優位に立っている前提条件があるからできるものだよね。 これだったら……なに?予告状?」 海の上、はるか遠くから遠雷の音が聞こえた。
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