六時間目 臨海学校

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「僕、船の警備責任者に説明しておきます。」 「じゃあ僕は、先生にお伝えにいきます。センリ悪いですが、生徒保護の指示を出しといてください。」 鴇くんの言葉に、連れられたように皐月君は立ち上がり、さっと部屋を出て言った。  犯罪予告を出されているのに反応軽くない?と思ったそこの君。その通りです。やたら動きが速いのには理由がある。この学園はお坊ちゃま学園。日本の財物の集合体。つまりは、割と日常茶飯事なのだ。誘拐、殺害などの脅しなんかは。学園内にいるときは完璧すぎるセキュリティにより、実害が及んだケースは昨年一年間で0。というか10年連続0。政治家などの有力者がこぞってこの学園に息子たちをいれるのにはこの異常なまでの安全性によるものだったりもする。 けれども、ここは船の上。学園ではないのだから、万が一もあるし用心をするに越したことはない。そう思って攫うと言われた当事者である、湯灯家の長男……湯灯由真を見る。彼はニコニコと微笑んで楽し気に足をぶらぶらさせている。流石世界シェアをとるおもちゃ会社の息子。慣れっこらしい。一方隣に座る弟の湯灯旋真を見れば、ニコニコしているがいつもより静かだった。 「旋真くん体調でも悪い?」 そう声をかけるとこちらをすぐさま見た旋真は、きょとんとした顔になった。 「んー?そんなことないけど、どうしたのー?」 「気のせいならいいんだ。ごめん。なんだかいつもと雰囲気が違う気がして。」 「いきなりの予告状だもんちょっとびっくりしちゃったからかなー」 旋真は吃驚したという割には、落ち着いているように見えた。由真はそんな旋真にいつも以上にひっついている。 「大丈夫だよ由真。こんな船の上じゃそうそう誘拐なんて起きないよ。」 「そうだよね旋真。ただちょっと怖くなっちゃったの天候のせいかな。」 「雨も雷も酷いもんね。僕は雷嫌い。」 「風も波も酷いもんね。僕は波嫌い。」 二人は互いにおでこと手を合わせて同じ速さで交代しながら話している。それが、互いを確認しているように見えて、なんだか背中が冷える感じがした。うちには三人の姉がいる。個性で殴り合って喧嘩しているように見える姉たちを見ていると、ここまで考え方も似ているのにはだいぶ驚く。双子とはまた違うのかもしれないが。 なんとなく、二人とも不安なんじゃないかなと思った泉璃は、湯灯兄弟の前に片膝をついて手を握った。二人ともそっくりな顔できょとんとしている。 「なんかあったら言ってね。俺にできることならなんでもするから。」 たとえば、一緒にいてほしいだとか、外に出るのが怖ければ食事を持ってきてほしいだとか。そんなつもりで泉璃が口にすると。 『今何でもするって言った?』 「すみません。生意気言いました。何でもは無理です。」 そこだけシンクロしないでくれ怖いから。
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