六時間目 臨海学校

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その夜。 外は激しい雨で、窓の外が見えないほど。 しかし揺れも感じず、音も全く聞こえないこの船に乗っていることが不思議な気分だった。なんだか夢の世界にいるようで。 結局、湯灯兄弟は安全を考えて2人を同室にし、部屋の前に警備員さんを配置してもらうことになった。全員生徒も部屋に戻して、明日安否を確認するまでは、ほかの警備の方も一晩中パトロールをしてくれるらしい。申し訳ない感じがするが、由真の安全が第一だ。 船内が少しだがピリピリとしている空気を感じて、俺は眠れないでいた。自分に割りあてられた部屋はとても豪華で到底シングルルームとは思えない。ホテル……といってもジャグジーまでついてる高級ホテルの一室をイメージしてほしい。シャンデリアまでついていて、その煌びやかさに閉口する。だいぶ慣れたけどまだまだ落ち着かない。 やることを探して、パソコンに手を伸ばし実家の家業のお手伝いを始める。強制的なお手伝いだが、一応バイト代も出るのでサクサク進めていく。時給制じゃなくて出来高制なのがブラックだけど。 指示された仕事内容に目を通す。思うに母上様は経営者としての天性のセンスがあったに違いない。産んだ子供全員がベクトルの違う興味関心と性格をしていても、それぞれが得意とする分野に的確に仕事を回していくし、それとなく伸ばしていく。俺も学園では少し目立つ所もあるけど、基本的に姉達の前では霞か?と思うくらいには薄い。水出しのお茶を水割りしたくらいに薄い。そんな俺の好きな事を気が付かないうちにそっと見つけて支援してくれたのには尊敬と感謝が素直にある。……感謝はするけども、あんまり帰省はしたくない。圧に負けるからだ。理由は察してくれ。 半分くらい進めて時刻は11時半。 突如内線で電話がかかってきた。会長の教育の成果で、ついワンコールで出る。 「はい。久瀬です。」 『もしもーし!』 爆音だった。音割れしながら元気いっぱい鼓膜を貫通させたのは、どう考えても湯灯兄弟。 「もしもし……えと、由真と旋真?」 『正解だよー』 「どうしたの。なんかあった?」 『違うよ!電話があったからかけてみたんだ!』 『まずは何でもしていいせんちゃんかなって!』 「いい子で寝なよ2人とも」 電話口の声が元気そうで心底安心する。少し世間話をして電話を切る。何か頼みたいことがあるようでもなかった。 一息ついてから俺は時計を見る。 時刻はもう12時。もうすぐ寝た方がいいのだろうと、ストレッチをしていると。 また電話が鳴った。 『もっしもーし!』 さっきと同じような鼓膜を突き破るような爆音で。 「どうしたの由真と旋真。やっぱりなんかあった?」 やはり不安なんだろうか。切ってから5分も経たないで電話してくるだなんて。そう思って問いかけると。 ピンポーン と間の抜けた音と共に俺の部屋のチャイムが鳴った。
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