三時間目 新入生歓迎会

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「心外ですね。嘘つきだなんて。」 猫の目のようなその顔を見て、気分が悪くなってないと言えばはっきり言って嘘だ。会ってすぐの中で訳知り顔でにやつくこの男は、なんだ……?警戒心がさっきよりも跳ね上がる。どきどきと煩い鼓動を殴りつけて、俺は相手を見据えた。 「ふふ。別にそれが悪いわけではなかろうて。ただ美しき顔に詰められた蜜はきっと甘美であろうよ。」 「何のことかはわかりませんが、『仲良く』してくださいね。広報委員長さん。」 引いちゃいけない瞬間だと判断した。わけのわからない人と対峙するのは怖すぎる。けれど、ここで逃げたら、弱みを見せること。 「儂のことは神楽耶と呼べ。お前にはそう呼んでほしいのだよぅ会計殿。……主の胸中はどこにあるのか見せておくれよ」 微笑むその顔は猫というより……狐だ。 一歩。距離が近づくだけで呼吸が苦しくなる錯覚を覚える。 一歩。自分よりも大きな存在に主導権を握られる。 だから。俺は微笑んだ。ゆっくり息を吐きだして、冷えたゴムのように強張る頬を強引に動かす。震える足も、思い出しそうになった過去も全部飲み込んで。美しく……微笑んだ。 広報委員長さんはそれに虚を突かれたような顔をした。にやり顔が解けて、純粋に驚いたような。 「緒環先輩が、俺のことをどう思っていらっしゃるかはわかりませんけど。俺は先輩が思われるほど面白い人間ではないと思いますよ。」 ――久瀬泉璃の微笑みは氷の鎧。 穏やかで、鋭利なまでに美しく、その周囲のすべてを拒絶する。 いつものおちゃらけて誤魔化す笑顔も気を使ってだす笑いでもなく、その完璧な微笑みに言葉が出てこなかった。緒環も……葉露も。 「失礼します。いずれまた。」 その硬すぎる鎧は触れる前に凍てついて。二人の男に突き刺さった。
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