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足を動かして前に。それで歩ける。なんて簡単だろうか。だというのにその動作はぎこちなさを極めていた。右足を出して左足を出せば歩ける。あたりまえ体操である。
「き、緊張した……。」
どうにか距離を取れたと判断したところで、俺は座り込んだ。いきなりは消えない体のこわばりと共に、足の痛みが主張を始める。なんだよ。かまってちゃんか?
名前こそ聞いたことがあったが、初対面の緒環神楽耶先輩はなんというか圧がすごかった。俺は会長さんの俺様全開オーラや風紀委員長さんの嗜虐オーラやら鹿くんの物理的にでっかいよ圧なんかに慣れてきたと思ってたんだけど……粘着質で相手の裏がすかせない、あの感じはニュータイプだった。俺を見定めようと、支配しようとする目。
どろりとした嫌な感触が足元から這い上がってきて、若干えずいた。やだな。未だにメンタルが弱すぎる。
顔を覆って、深く息を吐く。このまま丸くなってじっとしていたい。…………のに。
「ここにいるのか⁉センリ‼」
つんざめく耳障りな高音。声変わり前の高く、幼く、無遠慮なその声は持ち主そのものを表している気がした。また少しだけ嫌いになっちゃうじゃないか。
「やっほ。転入生君」
ひらりとこちらが手を振ると、彼はもっさり毛玉黒髪を振り乱して瓶底眼鏡ごしに俺をとらえた。
「転入生じゃない!俺は笹ヶ峰爽という名前がある‼」
いやいや。転入生は事実でしょ。とは口にしない。彼を確認するといつもついているお付き……じゃなかった、友人君二人組がいなかった。
「あれ。お友達は?」
「アレイのことか?それとリュウガのことか?……そうじゃなくて!俺はお前を捕まえる‼」
「それはまた……なんでかな。」
困ったことに立ち上がることはできても、足がうまく動かない。逃げ出したいけど、今の俺だと追いつかれる可能性が高い。
「話はいいんだ!捕まえてその後で」
時間を稼ごうとしたが、残念話が通じなかった。どんどん転入生くんが距離を縮めてくる。それでも動く気配を見せない足がぶるりと震えた。
伸びた手が俺に届くまであと……
あの勢いがも一度やってくるのを予想して俺は瞬間目を閉じた。
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