三時間目 新入生歓迎会

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「あ、うん。落ち着いた。」 「そうか。」 目が合うと、ゆっくりと両手を千廣はほどいた。感触が消えてほしくなくて無意識のままに俺は両手を握りこんだ。ロッカーの中、声を発そうとして息を吸う音すらはっきり聞こえる。 「どうして、手……」 「泉が震えていたから。気がついてなかったか?お前、あいつらが行った後もずっと震えてたぞ。」 「……うそ、まじか。なんでだろ俺。先輩たちの前だったらちゃんとできるのに」 慌てて両手を見返すと、今は震えが収まっていた。ただ確かに全身に力を強く入れたような軽い疲労感が残る。びっくりしつつ現状を確認して安堵すると。 「なんでだ。」 今度は少し硬い言葉が降ってくる。言葉の意味が分かり切らなくて黙ると、もう一度硬質な声は落ちてきた。 「なんで、呼ばない。…………俺を。」 「なんでって、『俺の問題』だから、千廣は関係ないだろ。」 「関係、ない?俺は言った筈だ。頼れって。」 はっと顔を上げる。そういえば、千廣は確かに何度も言っていた。俺を頼れ。呼べと。しかしそれを表面で聞き流している俺がいた。 「お世辞だとでも思ったのか。俺の言葉は信じられない軽薄なものだと。お前はそう思ったんだな。」 「ちが、そんなわけ……」 慌てて出てきた言葉を鋭い視線が刺した。軽い言葉はいらないとその視線は突き刺した。途端に出てきた言葉が何も口から出てこなくなる。 「俺は泉にとって――」「もう一回ここまわってみるぞ!アレイ!絶対こっちの近くにいるから!!」 あのけたたましい声は。転入生はサイレンのように舞い戻ってきた。 千廣は軽く、でも確実に舌打ちをする。かき消された言葉を聞き返す前に、千廣はロッカーの扉を開けた。 「その足じゃ、走れてもあと一回だろ。お前はしばらくしてから出てこい。あいつらの相手は俺がする。」 「…………待ってちひ――」 走り出した千廣におそらく俺の声は届かなかった。乱雑に閉じられたロッカーの隙間から逆光で濃い影が遠のいていくのが見える。一人では少しだけ広くなったロッカーの中で俺は俯いた。 「待って。そんなんじゃ、ない……のに。千廣。」
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