3385人が本棚に入れています
本棚に追加
よろよろと少したってから立ち上がる。キイとロッカーの扉をきしませて出ていくと、呼吸が楽になった。
……千廣、怒ってたな。小学生ばりの感想しか出てこない。
思い返してみれば、あいつとの喧嘩はなにも初めてじゃない。中学生の時の千廣は所謂ヤンキーというか、基本は静かだが全世界に向けて牙を尖らす「一匹狼」だった。それに対して俺もまあ、大人しかった小学生時代の反動と病んだやりきれない気持ちで荒れ回り、それはもう「暴風雨」「豪雪」「異常気象」だったので、学校ではお互い仲良くはみ出し者だった。
最初は一切気が合わなくて。でもお互いが無視するというよりやけに気になって即喧嘩。火花を散らすどころか導火線に火をつけ合って投げ合うボンバーマン状態。
それが「ある時」を境にそれがいきなり親友になってしまうなんて不思議なものだ。性格としては真逆くらいに違うのにその違いがうまくはまると心地よい。そう気がついた頃には、絡まれやすい俺を自然と千廣はフォローしてくれることが増えて。いつしかニコイチにされた俺らは「オオカミ(番犬)の(暴風)雨と(大)雪」。そう二人はぷりきゅあ。……おちゃらけてみたけれど。
「謝らなきゃ……いけないよなあ」
千廣が怒った理由は、俺が助けを求めなかったことだろう。
そして、千廣が言った言葉を他の人と同じようにあっさり「お世辞」とか「リップサービス」だと思って流してしまった。
あいつにとっては一度口にした言葉はどんなに重い約束か知っているのに。
この学校に来て一年。
世渡りのすべも、上手な噓も、不安定な綱渡りの為になんだって覚えた。
口先を武器にして、ごまかしを盾にして、微笑みで鎧を着て。
だけど。
「大事な友達を失いたく、ないんだよ。わかってよ……千廣。」
誰にも聞かれないこぼれ落ちた言葉は、古い木が吸い込んでワンと、耳鳴りみたいに響いた。
無理やり立ち上がって足を踏み出す。とにかく今は逃げること。わだかまりは胸に残したままでも、逃げなくてはという本能的な気持ちで俺は息を吐きだした。
最初のコメントを投稿しよう!