三時間目 新入生歓迎会

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☆☆ 『彼』は、不思議な人だった。明るく大勢を前にしても絶やさない笑顔や、人当たりのいい言葉。でも誰にも真意を掴めないようにするり、するりと躱していく。 「軽薄」「チャラい」「人気者」「陽キャ」「セクシー」「蠱惑的」「贔屓されている」「カラダで生徒会に取り入った男」「〇〇のオンナ」 はっきりいって人それぞれ過ぎる印象。日本語のスラングまでは理解していない僕でも、嫌悪感を持つ人がいるということは伝わった。けれど僕には、彼が誰かが囁くような軽薄な人には見えなかった。 そう、あれは彼が、僕にやたら元気に話しかけてくるササガミネソウくんが階段から落ちた日。 僕は本当にただの通行人だった。ササガミネソウくんが階段から足を滑らして(少なくとも僕にはそう見えた)酷い体制のまま落ちた。それを、一瞬のためらいもなく、彼は両手を広げて受け止めに行った。誰もが動けないあの瞬間に、自分が床に叩きつけられた時も、ササガミネくんの頭を抱き込んで守るなんていう動作は、経験があったのかそれとも本能か。 特に驚いたのはその後。彼は一言だって「巻き込まれた自分の事情」を口にしなかった。ただ当然かのように、文句も言わず周囲を落ち着けるための行動を取る。誰も傷つけないようにそして鮮やかに場を収める姿は、まるで……「おひめさま」だった。 優しく、鮮やかに麗しく。芯をもって凛として。 王子のように強引に泥臭く解決したりしない。彼が発する耳触りのよいややハスキーな声に誰もが自然と従う。落ち着きと安心を与えてくれる気品を持ち合わせ、咄嗟に頭のまわるスマートさを備えた秀麗な「女神様」 目を奪われるのは必然。 僕は彼に強烈な興味を持った。 あの女神様は、僕を見ないかもしれない。僕と交わる運命など存在しないかもしれない。それでもいい。ただ……少しだけ憧れたっていいだろう。 叶うなら、彼と一言でも話したい。できるなら彼のことをもっと知りたい。 新入生歓迎会の喧騒の中、やっと一人になれた僕は。その機会が思ったよりも早く訪れたことに喜ぶ……前に驚愕した。 「危ないッッ!」 女神様の細い体は階段の前で崩れ落ちた。
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