3385人が本棚に入れています
本棚に追加
☆☆
咄嗟に彼の腕を掴む。そのまま半分落ちかけていた彼の腰を攫って階段の一番上にいる僕の体へと引き寄せる。抱きしめるような形で彼をこちら側に連れてくるとそのままドスンと僕はしりもちをついた。比較的標準的な……それでも身長にしては軽めの男性の体重は僕の上に乗っかった。その彼は途端に
「…………あれ、ここ――」
と声をあげた。何かに気がついたかのような表情は少年のようで少し幼げだ。その顔を至近距離で数秒見つめてから、僕は口を開く。
「大丈夫ですか。お怪我は?」
「いや……そちらこそ怪我無い?」
慌ててどいてしまった彼を少し惜しみながら、お互いの顔を合わせる。間違いなく彼は、あの女神様。
「いえ。羽のように軽かったのでご心配なく。」
その言葉に女神様は何とも言えない表情をした。愁いを帯びた不思議そうな顔が美しい。
「はじめまして、ですかね。一年の鴇晴馬です。」
「ああ、新入生代表挨拶してたよね。俺は、久瀬泉璃。ごめんな少し考え事してて。」
「そうでしたか。ご無事で何よりです。」
こちらから名前など知っているがきっちり挨拶を返してくださるあたりやはりまじめな人だ。微笑みながら返事を返すと、女神様こと久瀬先輩はきょろきょろとあたりを見回した。
「ここはササガミネソウくんも落ちた階段ですから、どうかお気をつけて……」
差し出がましいと理解しながらも、どうしても会話をやめたくなくて言葉を紡ぐとぱっとこちらと目が合った。
「やっぱりそうだよな。ここ……何かがおかしいと思うんだ。足が縺れるというか引っ張られる感覚があって……」
「階段に何か仕掛けが⁉」
「わからないが、誰も傍にいなかったのにいきなり足が変な感覚になったのが引っかかって……」
真剣な顔をされている久瀬先輩と同じようにしてひょっこり階段を覗き込む。別段変わったところがないように思えるが……。
その時カシャンと音がして、何かが落ちた。
最初のコメントを投稿しよう!