三時間目 新入生歓迎会

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――驚いた。「俺」の不調があっさりばれてしまっていた。走った時に違和感があったかなと内心ひとりごちる。普段ならすぐにごまかそうと思うのだが……鴇君の真剣な顔に言葉がすぐには出てこなかった。 「左足をかばわれる体の運びをされていますよね。それと、おそらく足に包帯か何かを巻かれているようでしたので、スラックスの裾がやや広いようでしたし。」 「よく見てるね。」 そこまでわかっているのなら、下手な嘘は醜態を晒すだけだろう。苦笑いを浮かべると、鴇君は一瞬で顔に朱が走り耳まで赤くなっていた。さっきまで、はきはきと話していた彼が口を覆いながら口ごもりつつ声を出す。 「その……久瀬先輩のこと、特に見てたので。すみません!気持ち悪いですよね。そんな先輩をぶしつけにじろじろと……」 わたわたしながら話す姿は愛嬌があってかわいらしい。なんだろう。後輩ってこんなにかわいい存在だっけ。品があるがどこか冷たげな印象だった彼が年相応の表情をしている。まことに、まことに遺憾だが身長は俺よりも高い彼が、赤くなって大きな身振り手振りで話す姿は、好感が持てた。 「……それはどうして見てたの?」 今彼がしっぽがついていたのなら全身を震わせてピンっとさせたのだろう。それがわかるくらいに動揺しながら、彼は言葉を紡いだ。 「一方的に久瀬先輩をお見かけして、その時の姿が忘れられなかったので。 凛と立って周りの人を惹きつけていて先輩だけのの空間があるみたいで……ああ、綺麗だなって。」 真正面からの誉め言葉。光の加減でペリドットに輝く彼の目は逸らされることなく一心に俺に注がれている。純真で嘘も隠し事もない澄んだその目。 「その目の方が、綺麗だよ。」 気がつけば頭の中の言葉はするりとそのまま声になっていた。綺麗な目が大きく見開かれ、揺れる。ずっと見ていたいけれど、見すぎたら目がつぶれてしまいそうだ。まるで太陽。 そっと逃げるように視線を落とすと、彼の手に目が留まった。手には銀のブローチが握られていた。
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