三時間目 新入生歓迎会

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「俺の、お願い?」 「ええ。あなたのお願いを僕に叶えさせていただきたいのです。久瀬先輩がされたいこと、困っていること。微力かもしれませんが、僕にお手伝いさせていただけませんか?」 ミルクティー色の髪がさわやかに揺れている。その顔は穏やかで真剣だった。 「僕は、久瀬先輩のことをもっと知りたいです。でも、親しくなってほしいなんていう自分勝手で卑怯な願いなんて、失礼ですよね。」 「だから、俺の願いを叶えることで、君のことを知ってほしいって?」 頷いた彼は俺の手を下から支えるようにとった。その感触はひんやりとしていて、さっきの両手の温度が頭をよぎる……いけない話に集中しないと。さっきのしっとりとした両手を包むぬくもりと反対にさっぱりと冷えた温度は思考をひっぱりもどした。 「憧れの、久瀬先輩の傍にいたいと思ってはダメ……ですか?」 なにそれ。かわいいんだけどこの後輩。柴犬のしっぽがだらんと落ちている幻想を抱く。なにかと俺の周りはポーカーフェイスが多いからストレートに好いてくれていて、尊敬しているとまで言われ、さっきまでかなり控えめだった主張を唯一このときだけ強めにくるとか。……意識しての作戦か無意識かはわからないがかなり効果的過ぎて俺に刺さった。  それに俺にとっては何を言われるかわからない無茶ぶりよりもよっぽどいい提案だった。 「それでいいよ。よろしくな。鴇君」 「……はい!」 ぱあっと花が咲くような笑みがまぶしい。裏表を感じないその表情に少しだけ頬を緩めた。
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