三時間目 新入生歓迎会

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 カタカタとノートパソコンに指を走らせる。電話を切ってしまったのだから、せめて俺の気づきと事件の顛末が瞬時にわかるようなものにしておかないと。停電を起したので損害賠償とか言われたらどうしよう。自家発電がついているから学園のコンピューターシステムには異常なしだろうけど……そんなことをつらつらと考えていると、はっと手がとまった。 ……鴇くん放置しちゃだめじゃないか。隣にいる彼を見るとにっこりと微笑まれた。 「どうぞ僕のことはお気になさらずに。お仕事ですよね。……それとも何かお手伝いできることありますか?」 出来すぎじゃないかこの後輩。いい子過ぎる。察する能力がカンストしてる。頭を撫でたい気持ちが沸き上がるがぐっとこらえた。学園の王子になんてことを。 「手伝ってもらうのは申し訳ないから大丈夫……だけど、すぐ仕事終わらせるからちょっと待っておいてもらえる?」 「はい!」 この後輩には絶対なにか奢ってあげないと気がすまない。そう頭の中で考えながら、指先だけは別の生き物のように素早く動かす。 階段から落ちた笹ヶ峰爽と、落ちかけた俺。あの時確かに階段に俺は足を引っ張られた。それに加えて銀のブローチが張り付くってことは……間違いなく磁力だ。俺の足には金属でところどころ止められた包帯があるから引き寄せられたのだろう。小さな金属を引き寄せるほどだ。かなり強力な磁力。だからそれを俺は『電磁石』だと仮説した。電磁石なら電気を流すだけで強い磁力を発生させる。ブレイカーを落としたのはそれを確かめるためだった。直観にも近いその仮説は、的中した。 ではここで疑問が発生。階段に磁力なんてどうして必要なんだ?それも電磁力なんていうものをわざわざ仕込むだなんて大掛かりな……。 悪戯にしては階段という特性上、大怪我も想定できるからやりすぎだろう。一応あの階段には人を寄せないように通達してもらおうと書き加える。 冷静な目で資料を推敲しながら頭の片隅でちりちりと何かが警鐘を鳴らした。頭に浮かんだのは虎のしっぽを踏むような感覚。これが何か大きなことなんかに繋がっていなければいいのだがと細く息を吐きだした。
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