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「得意料理は?」
「基本何でも作れますが、特にマドレーヌ、カヌレ……お菓子が得意です。」
「苦手なことは?」
「思いつきませんが強いて言うなら、ストレートすぎると言われます。」
「懐かない猫はどうする?」
「相手が受け入れられる距離を図りながら基本的には待ちます。」
「雑用したいよな?」
「ええ。尊敬する方の傍でしたら喜んで。」
圧迫面接か?
会長さんの手から逃れ、やっとのことで鹿くんを揺り起こし、皐月君の手も借りて双子を立たせることに成功した。俺は痺れた腕を皐月君につつかれてひと悶着したあたりで会長さんとの鴇くんの一問一答。
それも一年生に興味を持ったというような感じではなく、にやにやと仕事の時の上機嫌顔。謎すぎる。そしてなんだかうっすら嫌な予感がする。
「風見。お前が言ってた例の仕事適任を久瀬が連れてきたぞ。」
「例の……ああ、爽の情報提供者ですか。」
「これだけ器用ならうまいことやるだろ。なんせ王子様だから、疑うやつも少ないだろうしな。」
なるほど。ずっと問題視されていた転入生笹ヶ峰くんの情報を流すスパイ。確かに鴇くんならば適任だろうけど……。
おれはひょっこり立ち上がると、鴇君のシャツを軽く引っ張った。見上げると俺と目を合わすときにだけはすこしだけ緊張した面持ち。
「あの、『鴇君が嫌じゃなければ』の話なんだよ。誰か一人を監視するというとかなり人聞きが悪いけど、何か起こる前に手を打つために情報提供だなんていい気持ちのする仕事じゃないだろうし、かなり長期的に秘密保持の約束してもらはないといけないから、負担になるようだったら……」
「負担になんて、なりませんよ。むしろあのオネガイを叶えさせていただくチャンスではありませんか!」
「―――オネガイ、がなんだって?」
話を聞いていた会長さんから思いの外低い声が聞こえた。それに対して、鴇くんはゆっくりと小首をかしげてみせた。
「秘密ですよ。僕と久瀬先輩の間だけの、オネガイなんですから。」
「……ほぉ?挑戦的だな。一年。」
「生徒会長様が秘密一つ見過ごせないなんて心が狭いことはないでしょう?」
「勿論好きにすればいいさ。……だが」
ぐいっと会長さんが俺のネクタイを掴む。ぐへと間の抜けた声が出そうになって慌てて飲み込んだ。鴇君のシャツを掴んでいた手が解けて体を大きく傾けると、ぐっと傍に寄せられた。
「『仕事』をするときは俺に従え。ここでは俺が規則だ。ここにいる人も物も皆等しく俺の管理対象だ。……わかったな。」
わおスーパーハイレベル俺様暴君モードに突入してるよこの人。でも会長さんの言葉は一概に違うとも言い切れないのが、実際のところ。この学園の運営の最終決定はすべからず会長さんにあるし、俺ら生徒会役員も『生徒会長』が認めなければランキングがいくら高くても選挙で選ばれようとも、生徒会役員は名乗れない。それを伝えようとしたんだろう。したんだろうけども。
「会長さん!俺が!首が締まって!窒息死!する!」
ぎゃんぎゃん騒いで、もがいて離してもらう。ネクタイをいきなり引っ張るな。こんなところで天国のお花畑なんてみたくないんだぞこっちは。
……なんだ会長さん。「電柱にリードが巻き付いた犬?」身長が低いって言いたいのか。よし殴らせろ。
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