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「合宿山奥で……やることもないし。行きたくないんですけど、強制参加だし。」
ぼそ、ぼそとキキ君が話し続ける。確かに高校生が歩かされる山奥に年齢上体力面で不安のあるキキ君が参加するのは気が重いに違いない。
「それじゃあさ――」
言葉にしかけた途端。庭園の囲いのさらに先に人影が見えた。そいつは一瞬こっちを見た瞬間去った踵を返した。
「ちょっとごめんねキキ君。一瞬待ってて!」
その人影には見覚えしかなくて、咄嗟に全速力だ。ずっとここ最近探し回っては逃げられていた男にうっかり巡り合ったのだ逃がすわけにはいかない。
「ちょ、待てよ!千廣‼」
流石に現役バスケ部エース。足の速さじゃ絶対に追いつけない。だから俺には口を多めに回した。
「目が合った時点でわかってたろ千廣!俺の動体視力なめんなよ‼」
「どこまで逃げるんだよお前!話しぐらいさせろ‼」
「ちょっと待って……いっ」
俺は一瞬顔を歪めて座り込む。ズキリとした痛みにうめいて体を丸めると、足音は早くなって俺に近づいてきた。
一歩、一歩。あと少しと脳内でカウントを始める。
「泉、お前まだ足痛いの――」「捕まえた‼」
俺の手が届く圏内に千廣の足が近寄った途端、がっしりと千廣の足を両手でつかむ。そのまま俺は上を見上げた。
「い つ ま で 逃 げ る ん だ 千 廣 !」
「……チッ演技かよ。」
「演技なわけあるか。痛いのはあばらの間とかの横腹だわ。」
「運動不足がたたったな。」
「そりゃ、最近お前を追い回して体を酷使してますからいつもより負荷は大きいと思うけどね。」
「いいから離せ」
「離さない。俺とちゃんと話してくれるまでは嫌だ。」
握っていたのを慎重に足から腕に切り替える。相変わらず無骨なこいつの表情は硬くて読めない。ただ他人が見れば断言してもいいが怒っているようにしか見えないだろう。
「なあ。お前が怒ってるのはわかってる。だから許してもらおうって動くのは千廣にとってそんなに不愉快なのか?」
だからこそ逃げちゃいけない。これは直感でもあった。すると、ぐっと黙った千廣は俺の目を見つめて声を出した。
「怒ってる理由すらわかってないだろ。お前。」
「それは、俺がお前を頼ってなかったから……」
すると千廣は喉をぐっと鳴らして顔をそむけた。それはなにか引っかかった時に千廣がする癖だった。
「…………ただ頼ってほしいわけじゃない。お前にとっては≪≪同じ≫≫なんだろ。」
その言葉ははっきりとは理解できなかった。
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