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「誰かいますかー!」
ガシャンとシェルターを開く。残念ながら人気は皆無。元オタクぼっちの俺のことを指してないからね。ひとけが無いのだ。
ふざける暇もないので何をしているかと言うと、連絡が来てから頭の中をフル回転にする。このキャンプ場で、電波が届かない場所なんてほとんどない。大金持ち学園御用達を舐めちゃいけない。
なら考えられるのは、電波の届かない場所にいるか、携帯が壊れた。しかし二人いるのなら2人ともの携帯が壊れることは有り得るだろうか。確率としては低いが考慮に入れる。
電波の届かない場所と言えば……で思いついたの後こちらの防災装置、いわゆる核シェルター的なもの。完全に外部の刺激を遮断するためここのどれかならいるかと考えたのだ。皐月くんにはもうひとつの心当たり、携帯壊れた説を考えて付近の捜索隊への連絡をお願いした。そして意気揚々とシェルターを開けていた俺ですがね……なめてしました。多すぎる。おそらく50個は超えてるよね。ここは国の機密軍事施設かなんかだろうか。
「すみませーん!誰かいたら大きな声で返事してください!」
確認済みのシェルターには宿泊施設の地図と俺の名前を書いて貼り付けていく。行き違いになったら笑えないからね。
およそ半分くらいのシェルターを見て回ったころだろうか。
とうとう雨が降り始めた。バケツをひっくり返したようなという表現が的確過ぎるくらいの水量が頭に降り注ぐ。慌ててシェルターの中の一つに入り込むと、いつもはしない舌打ちを一つ鳴らした。
「やっぱり降り出したか。」
スマホを起動して、連絡をチェックする。皐月くんはばっちり仕事をしてくれたようだ。だが捜索隊もこの雨では……。俺は雨宿りしていることを伝えてから明かりを落とした。地図を確認すれば、捜索を始めてから約一時間で5㎞程度歩いてきたみたいだ。
俺は古畑任〇郎ポーズをとって、考え込む。この先どうしたものだろうか。雨が止むのは明け方。生徒が外で気を失っているなどして倒れていれば明け方待っていては間に合わない。命の危険がある。しかしこの先にいるという確証はないため、無駄に動いて体力消耗して俺が遭難するのもダメ。しかし宿泊施設に俺が帰るにしても、この雨の中だし5㎞戻るのだからリスクとしては同じくらいだし……ええい。漢は度胸だ。
靴の裾に長ズボンを押し込んでなるべく体を冷やさないようにする。残念ながら傘などはないが、今着てる上着は多少撥水なのでどうにかなってくれると信じよう。
「今、彼らに一番近いのはおそらく俺。なら、シェルターを最後まで確認して報告。」
口に出してやることを整理して、雨風で騒音を鳴らす重たいシェルターの扉を開く。誰かの命がかかっている時にうじうじ考える暇はない。
吹きすさぶ向かい風の中を俺は走り出した。
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