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山道は雨でぬかるんでいて、お気に入りのズボンに泥を跳ねさせる。しかし、一切構わず俺は探し続けた。捜索開始から2時間が経った頃だろうか。残りのシェルターはあと5つほど。人の痕跡すらないシェルターを見ながら、次へと足を向けると。雨風と霧の向こう側で、歪んだ視野の先。
人の声を聞いた気がした。高い声と低い声が争い合っているような。
音のする方向へ走り出す。それは隣のシェルターからだった。
「すみません!ここに誰か―」「だから別れてくれって言ったじゃないか!」
ガシャンと何かが割れる音。俺がそちらを見れば、背の低い男性が背の高い男性に壁に押し付けられて、肩を握られていた。
背の低い方は激しく抵抗していて、睨みをきかせている。間違いなく探していた凸凹コンビ……正しくは。
「やめようか。有馬悦二くん。」
がっと俺の体を間に入れて背の高い方つまり、有馬くんを離すと。今度はもう片方の小さいほうがげほげほと咽だした。
「大丈夫?須磨光くん。」
「ゲホゲホ……なんで名前。」
「同級生だしね。」
虚を突かれてものすごく不可解そうな顔をしていたがほっといて、どちらもを見た。
「それはいいとして。有馬くんと須磨くんはどうして宿泊施設を抜けてきたの?」
すると驚きが落ち着いたのか、どちらもがこっちを睨みつけてきた。どうしたのヤンキーボーイなの?
「邪魔すんじゃねえよ。部外者だろうが。」
小さいほう(須磨くん)がめちゃくちゃに睨んでいて、大きいほう(有馬くん)が少し表情を曇らしていた。さっきまで掴まれて睨んでいた以上に不機嫌そうなので、ことさらゆっくり話す。
「その部外者のみんなが心配して君たちを探すために動いてるけど。」
『え??』
「外は嵐、携帯電話も繋がらないで行方をくらませた生徒がいたらそりゃ心配するけどね。お邪魔でしたか。」
「でも……どうせ学校の指示なんだろ」
「ひとまず見つかったってことを連絡させてもらうから。話はそれからな。」
シェルターの扉の外へ出て電話をかける。外は暴風雨に代わっていた。暗いなと思いながら、スマホを取り出して、皐月くんをコールで呼び出す。一回で出てくれたところを見れば、そうとう待っててくれたんだろう。
「俺、久瀬だけど。探してた二人46番のシェルターで見つけたよ。」
「ホントですか⁉今すぐ救助隊をそちらに向かわせます。怪我人等は……」
「うん。お願い。怪我人はいない。」
「了解しました。それからそこの付近は――」
二人を見つけて安心したのだろう。一瞬気を抜いたのは俺の悪い癖。皐月君との会話が終わらないうちに、俺のスマホはするりと腕から落ちた。
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