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「すみません。電話切ってください。」
そう言って、有馬君は俺に向けて鈍器、おそらくバールを向けていた。すっと腕を下におろす。スマホは力が抜けた俺の腕からからんと落ちた。丁寧な口調ながら濁った瞳で俺を見つめる有馬君の表情は暗く鬼気迫るものがあった。
「須磨が嫌がるので。ほんとすみません。」
「ちょ、有馬!」
あわてて須磨くんが有馬君の腕をとめている。
KOEEEEE!oh彼はガチのヤンキーでしたか。普通に怖いんだが。そのバールしまってよマジで。引きつりそうな頬をびくりと動かす。
息を吐きだして、にっこりと無理に笑った。
「切ったよ。で、どうして抜け出したかは教えてくれないかな。」
「学園が気に入らなかったから抜け出しただけです。少しの気分転換ですよ。そうだよな、須磨。」
「……え、えと。」
きゃんきゃん吠えてた須磨くんが、逆に大人しいのが有馬くんのガチヤンキー感をあげていた。
「須磨君はなにか言いたいことが?」
「……その。」
「別にないよな。須磨。」
「待ってもらえますか。今俺は、須磨君に聞いてるんだけど。」
なにを隠しているのか知らないが有馬君の言葉には違和感しかない。だから須磨君を見ると、ちらりと有馬君を見てから俺の方を見た。
「あの、えっと。俺ら、付き合ってて。」
それに対して有馬君は半ば諦めたように息を吐きだした。できるなら俺を睨まないでくれ。……俺なんも悪いことしてない。須磨君はしおらしい様子で話し出した。さっきの尖った姿勢は案外必死なものだったのかもしれないと思い俺はゆるりと腕を組んだ。
「俺の親父が、この学園出たら別れろって――外じゃ俺らの恋愛は通用しないって言われて。……俺どうしても納得できなかったんだけど。お互いの将来狭める行為だし、将来性もない無意味な行為だって諭されて。何にも言い返せなくて。」
話はこうだった。須磨君の父親は有馬君と別れるべきと言われ、それに言い返せなかった須磨君は有馬君に対して申し訳ないような気持ちを持っていた。それでこの合宿でけじめをつけようとしていたらしい。そして須磨君は有馬君を
二人っきりで話せる場所に呼び出そうとしてた。俺が見たのはその時。
しかし、有馬君は別れることを了承しない。激しく口喧嘩になった二人は、いっそのこと失踪でもしてやろうという結論に至ったらしい。
おいまて。最後の一文が意味不明だ。
「えっと、須磨君は『やっぱり有馬君と別れるとかありえねー。じゃあ俺らを縛る親とか学校とかどうでもいいか。よし嵐に紛れて合宿からも学校からも失踪しよう』……ってこと?」
「失踪じゃない。駆け落ちだ。」
「……OK駆け落ち、ね。そして俺に見つかって不愉快極まりないが今?」
「おう。」
ため息が出る。『おう』じゃないんだわ。この元気いっぱいなヤンキー二匹の痴話喧嘩が突飛な方向に進んでこんなことになってしまってるのか。
「だから、邪魔すんなよチャラ男。俺らは学校から出てくから、もう無関係になるんだよ。」
……そろそろ。怒ってもいいよね?
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