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1話 非運命的な出会いは突然に!
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世界って言うのは、まだ知らない物に溢れていたらしい。
普通に生きて
普通に恋をして
幸せになって、そして死んでいく。
俺にとってそれはある種の摂理であって
私にとってそれはそれはある種の理想であった。
人間を神様が形作ったその時から、延々と続くループの中で
私達も、また生きているのだ。
それでも俺は
私は
時間を越えて
運命すら乗り越えて貴方に会い行く。
一度しかやって来ない、甘くて酸っぱい苺みたいな奇跡をもう一度。
『ループ。これは、始まりの物語』
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この時代において、教室の窓ガラスとはこんなにもガタガタと不愉快な音をたてる程に脆い代物なのかと考えていた。
教壇と言う一般生徒よりも一段階、物理的に上にある立場から舐める様に教室内を見回せば、どんな美少女転入生がやってくるのかと期待していた割に、やって来たのは冴えない猫背男で心外だぞ、とでも言わんばかりの虚ろな男子高校生の面が見える。
女子高校生の方に至っては端から興味など無いと言った雰囲気で、彼女らは日々の変化になど目もくれず、ティピカルなギャル生活を謳歌しているではないか。
俺は彼らに言ってやりたい。
そもそも日常生活の中で思わず目を奪われる様な美少女はそう存在しないし、ましてやそれが転入生で、甘酸っぱくも運命的な出会いを迎えるなど、それは小説や漫画の中の出来事でしか無くて、基本的にやって来る非日常成分など俺の様ながっかりする程の日常成分でしかないのだと。
彼女らにだって言ってやりたい。
こちとらそこそこ緊張しながらこの学校までやって来たと言うのに、蓋を開けてみれば見ざる聞かざる。
残りの言わざるは何処だと言ってやりたいが、俺は彼女らのコミュニティから既にシャットアウトされているらしく、教壇に立つ俺を放ってギャルトークに花を咲かせている風景を眺める事しか俺には出来なかった。
せめて少しは話を聞いて欲しいと思うのは決して間違った欲望では無いはずだが。
「山瀬くん?どうしたの?緊張して自己紹介しづらいのかな?」
どうしたとは何だ。
緊張などしていないし、そもそも聞く側の態度が成っていないじゃないか。
アンタの監督責任だろ、と言ってやりたい所だがド直球にそんな事を言って仕舞えば世間体が悪く成ってしまう事位は流石に知っている。
「初めまして。俺の名前は山瀬 涼太と言います。以前は横浜の公立高校に通っていました。ここはクラス変えの無い学校だと聞いているので、これから2年間宜しくお願いします」
にこやかに、そしてテキトーに。
担任の浅倉 富子 先生へそんな素晴らしい会釈を返すと、予め頭の中で練っていた其っぽい自己紹介を披露し、言い終わりと共に指定された窓際の後ろから2番目の席に着いた。
うん、想像通り。良く出来ましたと自分の心で拍手喝采。
そして同時に気が付く。どうして後ろは空席なんだ?と
今から思い返せば……それもこれも全ては、神と言う名の不都合な存在が産み出した運命だったのかも知れない。
「これから礼拝堂で始業式を始めに行くのですけれど~。今日は何と!もう一人、転入生ちゃんがいま~す♪」
先生からのビッグニュースに、クラスの中が異様な雰囲気でざわめき立つ。
そりゃそうさ。
何て言ったって二人目の転入生で、更に女の子と来た。
運命に飢えた男子に止どまらず、ギャルグループまでもが興味を引かれる最中、彼女はドアを開け放ち、やって来た。
この瞬間は目を疑ったね。
だってつい先程、俺が否定した筈の非日常的で目を見張る程の美少女がそこには居たのだから。
その姿はとても小さく、まるでミニチュアの精巧なお人形の様だった。
凛とした立ち姿は美しい西洋画を眺めている様な気分をこちら側に彷彿とさせる。
目鼻立ちはこの上無く整っており、長く艶やかな彼女の黒髪は少し風に揺れて靡く。
目は大きく二重で、そのつり上がった目端が彼女の気の強さを誰もにイメージさせた。
そして誰もが食い入る様に彼女の涼やかな声を聞く事なる。
「私の名前は四夜 一期。訳あってアメリカから帰って来ました。どうせ一年間だけの短い付き合いに成るでしょうから、先に言って置くわ。初めまして、そして…さようなら」
そう言い切ると何事も無かったかの様に平然と与えられた後ろの席へ向かう。
あれには流石に驚いたよ。
初めましての挨拶でいきなりさようなら~と言う奴は、古今東西を探しても四夜 一期を除いて他にいないだろう。
よくよく考えればこの時から四夜 一期のヤバい片鱗は確実に見え隠れしていたのだ。
当時の俺でも……直感から、四夜 一期はえらい美人だと思ったが、同時にヤバい奴だとも思った。
だが、時の流れってのは俺みたいに逆流する事はあっても、止まる事などあり得ない。
四夜 一期はクラスの生徒になど目もくれず、スタスタと俺の後ろの席に歩いて来る。
数多の視線をものともせずに無視しきって歩く様は、そこに存在するはずの彼女の姿が、まるでそれは誰もが目にする錯覚かの様にさえ思えるだろう。
その瞬間、無意識の内に俺は四夜 一期から目が離せなくなっていた。
「何よ。さっきからジロジロと。なんか用でもあるの?」
俺は、はてと我に帰る。
「いや………何でも」
「そう…。用も無いならこっち見ないで。バカ!」
「バ……ばか!?おま、ちょ……いきなり何を」
周囲からは四夜 一期のキレッキレな塩対応に唖然とする俺を見て、クスクスと笑う声が聞こえる。
期待していた皆には悪いが、俺達の出会いに青春の1ページを切り取った様な甘酸っぱさなど微塵も無い。
だがまぁ、こんな感じで俺達は出会ってしまった訳だ。
出来る事ならこんな出会い方はしたく無かったし、100歩譲ってこれが運命だとほざく神様でも現れたら、腹いせにロンギヌスでも送ってやりたい気分さ。
だから本当に、つくづく思うね。
どうか……偶然であってくれと。
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