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切り出すなら、こんな秋の夕暮れだと決めていた。この気持ちに気づいたそのときから、ずっと。自分の声が震えてしまわないように、気づかれないようしっと深呼吸する。
あのさ。ちょっと相談したいことがあるんだけど
「なんだよ急に改まって。そんなに大事な話なのか?」
うん。まあね
「変にもったいぶるなんてお前らしくないな」
たまには、いいじゃん
「まあいいんだけど…お前が変な態度してる時って大体面倒くさいからさ。この間だって急に深刻そうな顔して何を言い出すかと思えば、飼ってる犬が脱走したから探すの手伝ってくれとか。そんなに変な態度しなくても、普通に言ってくれたらちゃんと手伝うのに」
その節は大変お世話になりました。あの時はすごい焦ってて、近所に住んでるお前しか頼れる人いなくて…
「ふーん。じゃあもしも俺が近所に住んでなかったら別の奴を頼ってた?」
そんなことない、最初に相談したと思う。大事な幼馴染みだし、友達…だし
「ふーん。友達ねえ…。で、大事な話ってなに?」
あのさ。これは僕の友達の話なんだけど
「おまえ、俺以外に友達いたんだ」
うるさいな、いるよ別に。…そいつ、好きになっちゃいけない人を好きなんだって。もうずっと長いこと
「まどろっこしいな。好きになっちゃいけない人って誰だよ」
なんかそれはどうしても言えないらしい
「めんどくせーな。で、そいつはどうしたいわけ?」
正直にそれを相手に話すか、それともずっと今の関係を続けるかで、ずっと悩んでるんだって
「そんなの簡単だろ。すぐに正直に話せばいいじゃん」
僕もそう言ったんだ。でもそいつ、自分がそれを言うことで関係が崩れたり、相手に軽蔑されたり避けられたりしたらって思うと怖くてたまらないんだって
「じゃあそいつ、相手との関係はそんなにすぐ壊れるくらいのものだって思ってるんだな」
え…?そういうわけじゃないだろう。きっと信頼してるからこそ、言い出せないんだ
「違うな。そいつはただ臆病なだけだね。相手との関係に名前を付けるのが怖いだけ。もし本当に好きだったら、拒絶されるのを恐れずに、ちゃんと思いを伝えるだろ」
……
「第一、ほんとに仲がいいなら、相手がそんな風に拒絶するような人間かどうかちゃんとわかってるはずだろ?」
お前にはわかんないだろ!ずっと、ぼ…そいつが、どんな気持ちで思いを隠してきたのか
「じゃあ、最初から全部ばれてるとしたら?で、ばれてる上で、それをまんざらでもないと思ってるとしたら?」
…どういう意味?
「ちょっと手が触れただけで赤面することとか、急に目があったら一回必ずそらしてからまた合わせてることとか、自分だけに満面の笑顔向けてくることとか。まあそいつは無意識でやってるから隠し通せてると思ってるみたいだけど。そんなこと近くでされ続けてみろよ。だんだんほだされてくるから」
さっきから…何の話だよ
「じゃあ俺からも相談していい?俺の友達の話。」
急に何だよ
「そいつ、すごい臆病なのね。だから、もーのすごいまどろっこしいやり方で、片思いの相手に気持ちを伝えようとしてるわけ。でも、本当は、その相手はずっと前からそいつの気持ちに気づいてて、そいつが告ってくるのをずっと待ってたんだよね。だから、今すごくイライラしてるんだって。そいつがちゃんと真っ向から気持ちを伝えてこないから!!!この意気地なし!大馬鹿鈍感野郎!!」
…どうして
「最初からバレバレだっつーの。いつまで待たせんだよ。…バーカ」
本当にいいの?
「うるせぇ」
……ずっとずっと前から君が好きでした。付き合ってください
「…30点」
え?なんで?ダメだった?
「うるっさい!いつもは野暮ったいくせになんでこんな時だけ…」
顔赤いよ?もしかして具合悪い?大丈夫?
「…お前がキスしてくれたら治るかも」
…
彼の唇は冷たくて、柔らかくて、そしてほんの少しだけ甘くて、レモンみたいな味がした。
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