幻のバーチャルリアリティーゲーム

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幻のバーチャルリアリティーゲーム

 「外出できないならば、自宅で冒険しよう」。そんなキャッチフレーズが国民の心を惹きつけた。  2020年の夏、世界的に蔓延したウイルスのせいで、外出制限や自宅待機を余儀なくされた年にバーチャルリアリティーゲームが流行した。ひとなつの思い出をバーチャルで体験しようという試みが流行した。花火大会、おまつり、夏フェスなどを涼しい室内で体感できるということは、人々の心をわしづかみにした。  そのゲームは瞬く間に大ヒットして子供や大人の運動不足の解消に貢献していた。自宅でできる体験型ゲームはカロリーの消費を促すということもあり、中高年や女性にもはまる人が続出した。というのも自宅にあるテレビと機器をつなげるだけで仮想空間が楽しめるというものだったので、手軽ということが国民の心を惹きつけた一つだっただろう。  2020夏、日本にある小さなベンチャー企業が世界的なブームを起こした。バーチャル空間を体験できるという夢のようなソフト。機器をつなげるだけで、異世界にトリップでき、まるでその世界にいるかのような気分になることができる。  「ただ歩くだけ」という触れ込みに中高年以上のユーザーが殺到し、大人気となった旅行ソフト。それは、実際の観光地を見ながら散歩したような気分になるという優れものだった。自宅の中で安全に旅行ができ、運動不足解消と気分転換もできるというものは、年齢層の高い顧客すらも虜にするという画期的な商品開発となった。今まで仮想空間などに興味がなかった年齢層のユーザーをも顧客としたベンチャー企業は一気に会社の規模が拡大し、業績は軒並み右肩上がりが続いた。それは、日本の経済の低迷を抑え、経済の活性化につながる貢献すらも担っていた。そして、それは外国からも需要が高まる存在となった。  ひとつの小さな会社が大きく発展するのに時間はいらなかった。それは、そのソフトの性能のよさと発売のタイミングが重なったのだと思う。時代に必要とされるものが売れるということは需要と供給の原則から見ても当然のことだ。  事業計画には、市場調査や顧客のニーズを把握するのが必要なのだが、今回は時代のニーズに合っていたということが大きな勝因だろう。  旅行ソフトでは物足りない年齢層には、本格的なアドベンチャーゲームを好む若者や子供は体験型アドベンチャーゲームにはまった。日本のベンチャー企業の挑戦は大きく世界に羽ばたいたのだ。  少年たちがはまったアドベンチャーゲームのひとつを紹介しよう。それは、自分が異世界にトリップして戦いながら宝を探し出すというゲームなのだが、のちに生産中止となり、幻のソフトとなったものだ。  なぜか、そのゲームをした後で具合の悪くなる者が急増したのだ。実際にソフトの中で怪我をすると現実に痛みがしばらく続くというものだ。そんなことがあるのだろうか? あくまで仮想空間だ。それなのに、現実と仮想空間がリンクした痛みが残るということだった。実際に肌に傷はなくても、痛いと感じる。それは、戦いがあるゲームならば尚更だった。  剣で戦った後に、刺されたような痛みが続く。火を浴びれば、焼けるような痛みが続く。その症状が瞬く間に日本の若者を襲った。すぐさま販売停止になったのだが、一体なぜそのような現象が起こったのだろうか?  専門家の見解だと、これは、幻肢痛(げんしつう)に似たものであるようだ。幻肢痛というのは、実際に手足を切断した場合になぜか、あるばずのない体の部分が痛むという現象だ。  仮想空間の発展により、幻の痛みを感じるという人類の進化によるものだというのが専門家の結論だった。人類の仮想空間の進化によって、新しい現象が生まれるのだ。それは、新しいウイルスに対して新しい特効薬が開発されるとさらに強大なウイルスが生まれる。その構図に似たもののような気がする。  人類は常に進化と戦う。それは、進化することによって新しい脅威が襲い掛かり、それに人類は対抗してきたという事実と重なる。  幻のソフトは回収され、生産中止になった。その後、特に危険ではない旅行ソフトも売れ行きが悪くなり、結果、会社は倒産した。風評被害というものだろうか。イメージは多大なる影響を与えるということだろう。人々の評価は実にわかりやすく正直だ。  ベンチャー企業の社長は今、新たな研究をはじめた。仮想未来や仮想過去に行けるというソフトの開発だ。人は歩みを止めたらおしまいだ。常に人がまだ未開拓の分野を進化させる、それはベンチャーの魂なのだ。  
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