嘘の代償

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雷は朝起きると、まずはカーテンと窓を開けた。 いい一日を過ごすには、気持ちのいい習慣が不可欠だと考えているからだ。 食事をとる時に挨拶をするのは当たり前、残さずに食べるのも当たり前。 両親と交わす笑顔は、心を上向きにしてくれる源だ。 だが、この平穏な日常で一つだけ奇妙なことがあった。 それは、何故か手の平に“百合”という文字が書かれていたのだ。 もっとも心当たりもなければ、手を洗っても消えなかったためそのままにしておいた。 「おっす、雷! 今日の給食って何だ?」 「ソフト麺の味噌ラーメンだったよ。 後は、牛乳と揚げ餃子」 「え・・・? あ、うん。 あれ、雷・・・だよな? 何か変わった?」 登校中に話しかけられ、普通に答えてみたが何故かクラスメイトは首を捻った。 今日の献立を、聞きたかったわけではないのだろうか。 「あ、雷くんおはよ! 私とタクト様の、相性占いをしてほしいんだけど?」 またしてもモジモジとしたクラスメイトに話しかけられたが、一般人の雷は相性占いなんてできるわけがない。 「相性は分からないけど、その人のことが好きっていう気持ちを持っているのは、凄く大事なことだと思う。 想う気持ちは、心も身体も成長させてくれるよ」 「・・・よく分かんないけど、ずっと好きでいたらいいっていうこと?」 「うん。 だって、君を見ていたらその気持ちが本物だって分かるから」 「・・・ありがとう」 彼女は顔を赤らめながらも、嬉しそうに立ち去った。 一体彼らは、自分に何を望んでいるのだろう。 そう思い考えてみたが、よく分からなかった。 それからも雷は、学校で何度も話しかけられた。 だがどれもこれも、少し変わった絡まれ方だ。 下級生の道案内をしていると『嘘つき』だと言われたこともあった。 だが雷は今まで嘘を吐いたことなどなかったため、それを否定し下級生を目的地まで案内した。 ―――・・・何か、おかしいなぁ。 雷は下校しながら、今日一日のことを考えていた。 “正直”をモットーに生きているつもりの自分が“嘘つき”だと思われている節がある。 誤解を解くのは簡単だが、流石に先生にカンニングを疑われたことには驚いた。 ―――満点を取ってカンニングって、他に満点の人がいないと成り立たないはずだけどな。 カンニングをし選択的に正解を選べるならあり得ないこともないが、それができるなら端からカンニングなどする必要がない。 論理的に有り得ないことを疑われる不合理は、教員の知性の欠如を感じさせられた。 「あ! ご、ごめんなさい!」 「いや、俺こそごめん」 考えながら歩いていたせいか、不注意で前から歩いてきた少女とぶつかってしまった。 謝ってきたということは、相手も不注意だったのだろう。 おどおどとして気の弱そうな少女だ。 本を読んで、むしゃくしゃとしていた雷は思う。 ―――・・・いや、何を思っているんだ? ―――俺は本なんて読んでいないぞ。 鞄はあり、中には教科書が入っている。 文庫本も、一冊入れていたのかもしれない。 だが今は下校中であり、本など読んでいたら危なくて仕方がないだろう。 雷は頭を上げた彼女の顔を見つめた。 初めて見る顔だ。 ――――いや、初めて見る顔なのか? どこかで、見た記憶があるような気がする。 彼女も自分を見るなり、真ん丸に開けた口を手で隠していた。 明らかに驚いている素振りだ。 「俺たち、どこかで・・・」 言おうとしたところで、少女は手の平をグイッと向けてきた。 そこには“雷”と書かれている。 「え・・・? 俺の名前・・・」 雷も、手の平に書かれた“百合”という文字を見せようとした。 何故かそうするべきだと思ったのだ。 だが奇妙なことに、手の平に書かれた文字が“百合”から“真鈴”に変わっていた。 それは、見覚えのある名前だった。 「真鈴・・・? って、幼馴染の」 「私、帰ってきたよ!」 その瞬間、全てを悟った雷は“二度”失ったはずの少女を、力強く抱き締めていた。 むかしむかし、あるところに、しろとくろという、ふたりがおりました。 ふたごのふたりはうりふたつ。 すむばしょも、たべるものも、すきなことも、いっしょでした。 そんなふたりは、あるひ、ちいさなぞうをひろいます。 あまりきれいとはいえない、ぞう、でしたが、ふたりはいえに、もちかえることにしました。 ふたりはいつもいっしょなのです。 だから、きょうりょくして、まったくおなじぞうを、もうひとつつくりました。 なんでもいっしょのふたりは、もっているものもいっしょにしたかったのです。 ゆうふくではありませんでしたが、ふたりはしあわせでした。 こどもから、おとなになっても、しあわせでした。 そこに、あかというおんなのこ、がやってきます。 くろは、ひとめみたしゅんかん、あかをすきになってしまいました。 そこではじめて、しろとくろはじぶんたちふたりに、ちがいがあることにきづきます。 しろはおんなのこで、くろはおとこのこだったのです。 あかは、おなじおんなのこである、しろ、となかよくしたいとおもいました。 くろは、それがうれしくありません。 じぶんがすきなら、しろもすきにきまっている。 いつもいっしょだったくろは、そうおもいました。 しろも、あかがすきになりました。 もちろん、ふたりの、すき、は、ちがうすきです。 だから、くろはきにするひつようがなかったのです。 じかんがたつにつれ、うちとけたあかは、くろともなかよくなりました。 いつしか、くろとあかはむすばれて、さんにんはほんとうのきょうだいになってしあわせにくらしました。 めでたしめでたし                                                                                                      -END-
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