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「ごめん」
「……いいよ」
あなたの言葉全てに頷くだなんて、それはただの欺瞞でしかない。思うに、俺は、彼女の我儘なところが、たぶん苦手なのだと思う。それは変えようのない事実だけれど、俺は、彼女の我儘なところが好きで付き合ったわけじゃない。我儘だろうが、何だろうが、彼女がいいと、彼女じゃなくてはならないと、あの雪の日に思ったのに。
3年半、短いようで長い時を一緒に刻む中で、それを見失ってしまって、違うところばかりが目に付いて、その上で胡坐を掻いていた。だけど、ずっと彼女は変わってなどいない。変わってしまったのは、俺の目線だったのだ。
「莉子」
「……何?」
ごめん。好きだよ。そう気持ちを込めて、お姫様の名を呼ぶ。
俺が、あなたを選んだ理由は。
喜びも哀しみも全部混ぜて、全身全霊で世界に色を塗っている、あなただから。俺が見ている世界に、鮮やかな色を付けてくれる、あなただから。
「……何アイスにする?」
「コンビニ、行ってくれるの?」
あなたは振り返って、俺の事を上目遣いに見つめる。返事に代わりに、まだ、不機嫌そうに歪んでいるその唇にそっと口づけをした。驚いたように俺の腕の中で目を見張るお姫様は、唇を離せば、少しだけ頬を染めて、そっとその口角を上げた。
ぶかぶかのパーカーを着込んだ莉子は、先にシリンダーを回し、ドアを開けて部屋の外へ。そのままくるりと振り返って、玄関で傘を手に取ろうとした俺の腕を止める。
「記念日デートだから傘は一つ!」
にまりと笑って、自分の腕に掛かった大きな傘を持ち上げた。俺の腕にしがみ付くあなたに、つい、笑みが零れそうになった。恥ずかしいので、ぎゅっと唇を噛んで堪える。そんな俺に気が付くこともなく、彼女はご機嫌で鼻歌を紡ぐ。
コンビニから家までの道のりが、長くて良かったと思ったのは、初めてだった。隣に莉子がいると、どんな景色にも色が付く。また、あなたは俺に新しい世界の色彩を見せてくれるのだ。
「奏汰?」
俺の顔を下から見上げて、俺の名を呼ぶあなたは、世界でたった一人だけの、俺のお姫様。
いつも、ありがとう。莉子、大好きだよ。
《アイスクリームの日 終》
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