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か細い声で俺を全く見ずに紡がれた言葉に、ハッとした。俺たちが付き合い始めたのは、3年半前の、秋の背中を冬が追いかけて、追い抜かした刹那のあの季節。
あなたはいつも、記念日をとても大切にする。理由を聞けば、「だって君と一緒にいる理由が出来た日だから」と、照れくさそうに笑う。俺には感じることの出来ない感性で、この世界を大事にする彼女は、俺の知っているどこの誰よりも眩しい。
「付き合ってから3年半の日っていうのは、一生に一度、今日しかないんだよ……」
今もまた、消えてしまいそうな声で、それでもあなたの言葉で、あなたの見ている色彩を綴る。俺は、そんな彼女の事が、好きで堪らないというのに。ひとつひとつの物事に対する感受性が豊かで、自由な彼女の事が。些細なことを大切に出来る、そんなあなたの事が。
3年半前、窓の外にちらつく雪の欠片を見て、あなたは、「桜みたい」と言った。長い睫毛で縁どられてた無垢な瞳で見ているその世界を、少しだけでも覗いてみたくなったのは、他でもない俺だった。
「雪を表す言葉に、“風花”って言葉があるらしいよ」
そう言って、誰に操作されるでもなく、俺自身の腕で、自分の意志で、あなたの腕をとったのだ。あなたに運試しで引かれたんじゃない。命令されたわけでもない。自分で、お姫様を助けるキャラクターになることを、望んだのだ。
「記念日祝いたいなら、ちゃんとそう言えばいいのに」
「…………」
意地っ張りな彼女は、俯いたまま決してこちらを向かない。そんな彼女を盗み見て、ゲーム機を再びソファに置き、そっとその頭に腕を伸ばす。ビクリと反応して揺れる柔らかな髪を梳くように、そっと指をのせた。
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