アイスクリームの日

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   窓が開いている。パタパタと空の彼方から落ちてくる雫が、湿った空気を作り出す。さっきより少しだけ冷たくなった風が、カーテンを揺らして吹き込む。ソファに身体を埋める俺の後ろで、くしゅん、という小さな可愛らしいくしゃみが聴こえた。カラカラ、と窓が閉まる音がして、追いかけるように、可愛らしい声がした。 「ねぇねぇ」 「ん?」 「今日、なんの日だ?」 「知らない、なんの日?」  左右の親指人差し指で器用にボタンを押せば、ゲーム機の中のキャラクターが必殺ワザを繰り出す。モヤモヤとした炎を纏った敵のHPゲージは、見る見るうちに半分になる。  俺が操作しているカラフルなキャラは、防御力は低いけれど、一気に敵にダメージを与えることが出来る最強のキャラクター。なるべく早く次のクエストに進みたい俺は、戦いの時短ができる、こいつがずっと欲しかった。レアオブレア。運試しのガチャで引き当てたときは飛び上がるほど嬉しくて、それ以来ずっとこのキャラを選択している。  続いて、敵のターン。持っている鎌を振りかざして、敵が攻撃を出す音に重なって、もう一度可愛い声がした。 「……今日アイスクリームの日だってさ」 「へぇ」
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