恋の予感

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「まあ、立ち話もなんだし、入ってちょうだいな」 勝手なことを言う母に不満を覚えながらも、しぶしぶ鍵を開け、スリッパを並べた。 「失礼します」 「狭くて汚いところだけど、ごめんねえ」 「とんでもありません」 ふたりは家主を置いて、我がもの顔で室内に入っていく。 「コーヒーでいい?」 「いえ、お気遣いなく」 「若いんだから、遠慮しなくていいのよ」 「そうですか、ではご馳走になります」 完璧に猫を被った室町の様子に、上機嫌になっていく母。 「ですって、朝子。言っとくけどインスタントはダメよ」 「この家にはインスタントしかありません」 「まあ、情けない。我が子ながらしみったれてるわね」 実家でもインスタントしか飲んだことないんですけど……。 あと、なぜ標準語で喋っているのでしょうか。 それでも室町が気に入られたのは、非常に喜ばしいことなので、黙ってキッチンに立つ。 「ところで室町さん。朝子はどうしてあんな恰好を?」 本人抜きで本題に入ってるし……。 でもまあ、このぶんだと彼が上手くやってくれるに違いない。 頑張れ、室町! 安心してガスコンロに火を入れた私は、心の中でエールを送る。
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