2194人が本棚に入れています
本棚に追加
/364ページ
最終章・かくしてふたりは
* * *
「お前、なに言ってんの?」
「だから、色々とやりづらいこともあるし……」
「はっ、じゃあなんだ、俺との結婚が恥ずかしいってことか」
「そうは言ってない」
「じゃあ、どういう了見だ!」
室町のマンションに引っ越して、甘い夜を過ごした翌日。
部屋でデリバリーのパスタランチを済ませたあとに、婚姻届けを提出しに行こう。ということになっていたのだけど……。食後のコーヒーを飲みながら、なにげなく放った私の言葉で、問題は起こった。
内容は仕事のこと。
まず、私の再就職先は、室町物産の営業部ということになっている。
本当は自分で就職活動をするつもりだった。けれど、室町曰く、私には隙がありすぎる――とのこと。自分の目が届く職場以外は許さないと、認めてくれなかったのだ。
まあ、流されやすい性格なのは認める。でも、ほいほい浮気をするタイプではないし、人妻になるのだから、少しくらい信用して欲しいものだ。
それでも室町には、悲しい思いをさせたという引け目もある。だから、しぶしぶ了承した。そう、了承したのに、だ!
話の流れで「会社では、旧姓で仕事がしたい」と言ったことで、口論が始まった。
「考えてもみてよ、室町の嫁が新人として入ってくるなんて、周りは気を使って大変でしょう」
「なんだ、お前は結婚の事実まで隠すつもりなのか」
「既婚者だとは言うよ、でも相手が社長の息子だってことは、内々に留めて欲しい」
「っんだよそれ、社内では他人のふりか」
「うん……そうしてくれると助かるけど」
「ふざけんな、バーカ。絶対に嫌だからな」
「ちょっ、室町、大人気ないことを言わな――」
「ああ、そうだよなあ、御曹司様の嫁じゃあ、他の男も声をかけづらいもんなあ!!」
「は? どういう意味よ」
「そういう意味だよ」
吐き捨てるように言った室町が、腕を組んで窓の外に視線を投げる。
最初のコメントを投稿しよう!