最終章・かくしてふたりは

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最終章・かくしてふたりは

* * * 「お前、なに言ってんの?」 「だから、色々とやりづらいこともあるし……」 「はっ、じゃあなんだ、俺との結婚が恥ずかしいってことか」 「そうは言ってない」 「じゃあ、どういう了見だ!」 室町のマンションに引っ越して、甘い夜を過ごした翌日。 部屋でデリバリーのパスタランチを済ませたあとに、婚姻届けを提出しに行こう。ということになっていたのだけど……。食後のコーヒーを飲みながら、なにげなく放った私の言葉で、問題は起こった。 内容は仕事のこと。 まず、私の再就職先は、室町物産の営業部ということになっている。 本当は自分で就職活動をするつもりだった。けれど、室町曰く、私には隙がありすぎる――とのこと。自分の目が届く職場以外は許さないと、認めてくれなかったのだ。 まあ、流されやすい性格なのは認める。でも、ほいほい浮気をするタイプではないし、人妻になるのだから、少しくらい信用して欲しいものだ。 それでも室町には、悲しい思いをさせたという引け目もある。だから、しぶしぶ了承した。そう、了承したのに、だ! 話の流れで「会社では、旧姓で仕事がしたい」と言ったことで、口論が始まった。 「考えてもみてよ、室町の嫁が新人として入ってくるなんて、周りは気を使って大変でしょう」 「なんだ、お前は結婚の事実まで隠すつもりなのか」 「既婚者だとは言うよ、でも相手が社長の息子だってことは、内々に留めて欲しい」 「っんだよそれ、社内では他人のふりか」 「うん……そうしてくれると助かるけど」 「ふざけんな、バーカ。絶対に嫌だからな」 「ちょっ、室町、大人気ないことを言わな――」 「ああ、そうだよなあ、御曹司様の嫁じゃあ、他の男も声をかけづらいもんなあ!!」 「は? どういう意味よ」 「そういう意味だよ」 吐き捨てるように言った室町が、腕を組んで窓の外に視線を投げる。
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