最終章・かくしてふたりは

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いったい、なにが気に入らないっていうのよ。 室町の希望どおり同じ職場で働くんだから、少しは譲歩するべきじゃない。 そもそも結婚式だって、私は落ち着いてからゆっくり決めたかった。できれば避暑地の小さな教会で、こじんまりした式がいいなって。 それなのに彼は強引にことを進め、どんな手段を使ったのか、通常なら2年待ちだという都内のチャペルを、半年後に押さえてしまったのだ。 そうそう、それに田舎の友人たちが開いてくれた送別会でも「俺が迎えに行く」と譲らなかった。「会が盛り上がれば、朝までってこともある」と伝えれば「嫁入り前の娘が、朝帰りなど許さん、日付が変わる前に帰ってこい」と、過保護の父親みたいなことを言い出すし、「そもそも東京から迎えにくるなんておかしい」という至極当然な抗議は「おかしいのはお前だ」と切り捨てられた。 考えれば考えるほど、お腹の奥からふつふつと怒りが込み上げる。 「だからお坊ちゃまは嫌なのよ」 「はあっ!?」 「今まで、なんでも自分の思い通りになってきたんでしょう」 「んなわけねえだろ、バカ」 「いちいち〝バカ〟っていうのやめてくれない」 「ああ分かったよ、ぼんくら、間抜け、無能女」 「っ!!」 なんなの、この男。 「もういい、あんたとは結婚しない!」 両手でテーブルを叩いて立ち上がる。 そのままテレビ台の引き出しに仕舞っておいた婚姻届けを取り出し、真ん中から引き裂いてやろうとした。だけど証人欄に記載された、母さんと室町のお父さまの名前が目に入り、手が止まった。 「おい間抜け、それをどうするつもりなんだよ」 「必要ないから破るんだけど?」 憎たらしい声に振り返ると、ふんぞり返っている室町の姿。おまけに平然とした顔で「早くやれよ」と、手のひらを振り、私を促してくる。
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