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「ここにきて、まさかの婚約破棄ですか!?」
「理由は? なにが気に入らないんですか」
「うーん、なんだか怖くなっちゃって」
このまま結婚していいんだろうか。
室町とは普通ではない状況で親密になって、だけどすぐに離れた。金銭感覚には大きなズレがあるし、育ってきた環境が違い過ぎるのだから、価値観も同じではないだろう。きっとこの先、もっと大きな問題がおこって、傷つけあって……。そうだ、お互いをよく知らないままに、将来を誓いあうなんて、早計だったんだ。
「朝子さん」
悲嘆にくれる私の手を、田部ちゃんが握った。
「それ……なんていうか知ってます?」
「ん?」
「マリッジブルーですね」
きっりぱり言い切られると、グウの音も出ない。
「うわあ、本当にあるんですねえ、マリッジブルー」
ゆきりんがキラキラした目で私を見ている。
「とにかく、自棄になってはいけませんよ。ここは落ち着いて、冷静に自分の気持ちを見つめなおすんです」
「自分の気持ち……か」
「そうです、朝子さんは室町さんのどんなところが好きなんですか?」
「うーん、そうだなあ……多少強引だけど真っすぐなところ……かな」
「他には?」
「一緒にいるとびっくり箱みたいで飽きないし」
「うんうん」
「すごく大事にしてくれていると思う」
「ですよねえ」
「それから――って、なに言わせるのよ!」
我に返って恥ずかしくなる。
急激に熱を持った頬を、紙製のコースターでパタパタと扇ぐ。
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