最終章・かくしてふたりは

8/16

2193人が本棚に入れています
本棚に追加
/364ページ
「わっ、室町さん、かなり焦ってますね」 私のスマホを覗き込んだゆきりんが、驚きの声をあげる。 「早くかけ直したほうがいいですよ」という田部ちゃんに促され、ディスプレイに指を伸ばした瞬間。また彼からの着信があって、思わず通話ボタンを触ってしまった。 『朝子っ!?』 耳をつんざく大声に、スマホを取り落としそうになる。 「ど、どうしたの?」 『お前、いったい何処にいるんだよ!』 「え……代々木だけど」 『代々木!?』 被り気味に叫んだ室町。 同時に「ああ、よかった」と、安堵のため息が吐き出された。 「よかった?」 『新潟に帰ったのかと思ったんだよ』 「え、どうして?」 『どう考えても、しばらく実家に帰らせて頂きます、のパターンだろ』 「そう……かな?」 『そうだよ』 「まさか、昨日東京に来たばかりで帰らないって」 『ったく……なんだよ、驚かせんなよ、電話もシカトだしよ』 その切実な声が、私の胸を締めつける。 「……ごめんなさい」 『え?』 「ひどいこと言って。それに婚姻届も」 スマホの向こうで、彼が息を飲むのが分かった。 そうして優しい沈黙が落とされたあとに。 『いや、俺も……悪かった』 少しだけ気まずそうな、だけど、とっても柔らかな声が聞こえた。
/364ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2193人が本棚に入れています
本棚に追加