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『とりあえず帰って来いよ、お互いが妥協できる着地点を話し合おう』
落ち着いた口調で言われて驚いた。
まさか、彼の方から歩み寄りを提案してくれるなんて思わなかったから。
「なんだか大人になったね、室町」
『32だぞ、俺』
「そうだった」
ふふ、と笑うとスマホの向こうからも小さな笑い声が聞こえた。
「今、田部ちゃんたちと一緒だから、もうしばらくしたら帰るね」
『ああ、気をつけて。遅くなるなら迎えに行く』
「ん、ありがと」
ほっとして通話終了ボタンを押す。すると今まで黙っていた田部ちゃんが、グッと顔を寄せてくる。
「で、どうなったんですか?」
「話し合おうって言ってくれた」
「なーんだ、つまんないの」
ゆきりんが唇を尖らせる。
「ごめんね、ふたりとも」
両手を合わせた私に、田部ちゃんが「早く帰ってあげてください」と、肩をすくめる。
「でも、せっかく久しぶりに集まったんだし、もう少し――」
「いいえ、今日は帰った方がいいです。ねえ、ゆきりんもそう思わない?」
「田部さんの言う通りです。朝子さん、鉄は熱いうちに打て、ですよっ」
「早く行って下さい」
シッシと私を追い払うような仕草をする、田部ちゃんのとなりで、ゆきりんは「頑張って」と拳を上げた。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「この次は朝子さんの奢りで、キハチ酒場集合ですよ」
「了解」
秋晴れの昼下がり。
柔らかな太陽の光みたいな優しさが、じわりと胸に染み込んだ。
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