最終章・かくしてふたりは

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* * * 「えと……ただいま帰りました」 気まずいのと照れくさいので、固い口調になってしまう。 対して室町は「おかえり」と、実に優しい声で迎えてくれた。 「どうした、早く上がってこいよ」 「うん」 玄関先でもじもじする私を、ふわりとした笑みで促した彼は、奥に向かって歩きだす。慌てて追いかけてリビングに足を踏み入れる――と。 「あれ、いい匂い」 食欲そそるスパイシーな香りが鼻孔をくすぐった。 香りの元は、キッチンカウンターの奥。 室町がなにやら大きな鍋を掻きまわしている。 「この匂いは、カレー?」 「おお、そろそろ腹も減ってきただろ」 こともなげに言うけど、この部屋に調理器具があるなんて大事件だ。 どうして昨夜から気付かなかったのだろう。よく見ればフライパンや電気釜など……3年前の殺風景なキッチンとは雲泥の差だ。もちろん私が持ち込んだのではない。 しかもシンクの中には、なんと野菜の切れ端が捨てられている。 「これ……まさか作ったんじゃないよね?」 「作ったんだけど?」 「室町が?」 「他に誰がいるんだよ」 「レトルトパックを鍋に移し替えたの?」 「失礼なやつだな」 いやいやいや、3年前は、料理はおろか珈琲1杯をデリバリーしていた男だ。 これはゆきりんの言うように、天変地異の前触れだろうか。 あまりに現実離れした光景に混乱していると、今度は電気釜がピーッという、炊きあがり音を鳴らす。
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