最終章・かくしてふたりは

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「ご、ご飯まで炊いたの?」 「米がなきゃ、カレーライスにならないだろ」 「……お水で洗った?」 「は?」 「まさか、洗剤とか使ってないよね?」 「なにを」 「お米は水だけで洗うんだよ?」 「お前、俺のことをバカにしているのか」 「だって――」 「いいから、テレビでも見てろって、もうすぐ出来るから」 私は夢でも見ているのだろうか。 おぼつかない足取りでソファーまで移動して、そこからカウンターの中の彼を凝視する。 うん……やっぱり離れて見ても、間違いない。 あの室町が料理をしている。 ああ、だけどそんなことがあるだろうか。 「痛あああっ!!」 「うおっ、何してんだよ!?」 手にしていた皿を落としそうになった室町が、声を荒げる。 「……やっぱり夢じゃない」 思い切り抓った頬は、尋常じゃなく痛む。 悶える私を見て、彼が大きなため息を吐きだした。 「カレーくらいで、そんなに驚くか?」 「うん」 「即答するな」 「だって、だってだってだよ!?」 興奮する私に、彼は穏やかに言う。 「お前が言ったんだろ」 「え?」 「3年前……少しは自分で家事をしろって」 ああ、そういえば……。 彼の家に居候をしていたころ、一切の家事を他人に任せているのに驚いて、そんなことを言った気がする。でも、あのときは、彼が室町物産の息子だなんて知らなかった。だから、そんな生活を続けていては、将来お金に困るだろうと、心配しての助言だったのだ。
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