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「つっても、仕事が忙しくて掃除はハウスキーパーに頼んでいるし、普段着以外はクリーニングサービスだから、偉そうには言えないんだけどな」
自嘲するように笑うけど、とんでもない大進歩だ。
「料理だけでも十分凄いよ。自分で勉強したの?」
私が身を乗り出すと、彼は照れくさそうに目を反らし。
「実は……お前を驚かせたくて、半年前から料理教室に通っている」
独り言みたいに呟いた。
な……この大きな体で料理教室ですって?
胸の奥がキュウッと締め付けられる。
ああ、もう。そんなの…………可愛すぎるっ!
衝動を抑えきれず、カウンターの中に駆け込むと、彼に飛びついた。
「おいっ、危ないだろ」
「反則だよ」
「なにが?」
「私のため、ってことでしょう?」
「まあ、そういうことになる……かな」
「嬉しい、今……最高に幸せだよ」
さっきまで、悩んでいたのが嘘みたいだ。
強引で自己中心的で乱暴で――なんて思っていたけど、そうじゃない。彼はこの3年、こんなにも私に歩み寄ろうとしてくれていた。
「室町は変わったね」
「そうか?」
「うん、すごく大人になった……私も変わらなきゃ」
そう決意して、彼の胸に顔を埋める。
と――、大きな手に優しく頭を撫でられた。
「朝子はこのままでいい」
「え?」
予想外の言葉に顔を上げる。すると彼は蕩けるような笑みを浮かべ。
「ここに居てくれるなら、なんだっていいよ」
言って、私のおでこに優しいキスを落とした。
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