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「まさか、あの年齢でそんなこと――」
「女の子ってね、親が思っているよりずっと早く大人になるの」
きっぱりと言い切る朝子の表情は、確信に満ちている。
「女に嫌われないようにするより、男を味方につける方法を選んだってことなのか?」
「本能的に分かったんでしょうね、最善の方法が」
「……この先、桜は苦しくないだろうか」
無意識に出たつぶやきに、朝子が小さく微笑む。
「うん、まあ……涼に似て、驚くほど図太いところがあるし、それに秋生くんがいつもそばに居てくれるから」
俺ほど繊細な人間はいないと思うが――まあ、そこは置いといて。
彼女の優しい笑顔に、少しだけホッとした。
「と、言うわけで……いつでも手を差し伸べてやれるよう、見守ってあげましょ」
「……仕方がないな」
流されるまま、頷きかけ――大事なことを思い出す。
「っ……けど、あのストーカー、桜に妙な感情を抱いてんじゃねえだろうな!」
「妙な感情って?」
「あいつは昔、俺に向かって、お父さま、桜さんを僕に下さい、なんて言いやがったんだ」
「ああ、もちろん貰う気満々みたいね、桜のほうにはその気がないみたいだけど」
楽し気に笑う朝子。
いったい、なにが可笑しいんだ。
――覚えとけ、秋生。今はまだ泳がせてやるが、いつか必ず桜の前から消えて貰うからな!
取り澄ました銀縁メガネ野郎の顔を思い浮かべ、俺は決意新たに拳を握りしめるのだった。
〜おわり〜
私の主治医は悪魔でしたの巻末に、秋生バージョンも公開しています。
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