【この娘は厄介】

7/7
前へ
/364ページ
次へ
「まさか、あの年齢でそんなこと――」 「女の子ってね、親が思っているよりずっと早く大人になるの」 きっぱりと言い切る朝子の表情は、確信に満ちている。 「女に嫌われないようにするより、男を味方につける方法を選んだってことなのか?」 「本能的に分かったんでしょうね、最善の方法が」 「……この先、桜は苦しくないだろうか」 無意識に出たつぶやきに、朝子が小さく微笑む。 「うん、まあ……涼に似て、驚くほど図太いところがあるし、それに秋生くんがいつもそばに居てくれるから」 俺ほど繊細な人間はいないと思うが――まあ、そこは置いといて。 彼女の優しい笑顔に、少しだけホッとした。 「と、言うわけで……いつでも手を差し伸べてやれるよう、見守ってあげましょ」 「……仕方がないな」 流されるまま、頷きかけ――大事なことを思い出す。 「っ……けど、あのストーカー、桜に妙な感情を抱いてんじゃねえだろうな!」 「妙な感情って?」 「あいつは昔、俺に向かって、お父さま、桜さんを僕に下さい、なんて言いやがったんだ」 「ああ、もちろん貰う気満々みたいね、桜のほうにはその気がないみたいだけど」 楽し気に笑う朝子。 いったい、なにが可笑しいんだ。 ――覚えとけ、秋生。今はまだ泳がせてやるが、いつか必ず桜の前から消えて貰うからな! 取り澄ました銀縁メガネ野郎の顔を思い浮かべ、俺は決意新たに拳を握りしめるのだった。 〜おわり〜 私の主治医は悪魔でしたの巻末に、秋生バージョンも公開しています。
/364ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2260人が本棚に入れています
本棚に追加