話をしてみようよ ー朱と緑ー

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 僕が働いている『株式会社姫凛ヒーロー派遣サービス』は、変わった会社だ。  所長のリーダーが決めた『社員はみんなヒーローだから色の名前で呼び会う』という不思議な社風をもっていて、僕も道管(どうかん)(みどり)で名前に緑がつくし、持っている服も緑が多かったからグリーンと呼ばれている。  いつもはカラフルな他のメンバーも揃っていて賑やかな事務所なのだが、今日だけは違った。    事務作業の一番できるレッドさんが休み。  さらに真面目で優秀な期待の新人、ゴールドこと小金(こがね)ちゃんも先週の休日出勤の振り替えでお休み。  ピンクはアイドル養成所へ通う日でお休みだし、ブラックこと黒丸(くろまる)くんは夕方まで依頼先との打ち合わせ。  リーダーは外回り……つまり営業で外出中。  つまり事務所に今日いるのは、  僕とこの……どう見ても青いボール球にしか見えない副所長のブルーだけだった。  僕より前にこの『株式会社姫凛ヒーロー派遣サービス』に入社していた目上の人に対してこういう例えかたってないとは思うけど……  どういうわけか、僕にはずっとブルーは目付きが鋭い青色のボールにしか見えない。  気にはなるけど、このことは他のみんなに聞いたことがない。  リーダーが普通に接しているし、後から入ったみんなも普通に接しているからだ。  きっと僕は疲れているからそう見えるのかもしれないと思い込んで、いつも仕事をしているんだけど……。  いや、そんなブルーの見た目は気にしても仕方ない。  それより今回、問題だったのはブルーの仕事態度だ。  元々、ブルーは事務作業が基本的に苦手なようだ。  まぁ、僕だけがそう見えているのかもしれないけどあの丸い手でパソコンを使うのは難しいようで普段から使おうとはしない。  コピーをとるにも身長が足りず、コピー機を使うことができない。  電話を出させようものなら、お客さんと喧嘩をしてしまう。  だからと言ってほっといたらほっといたで、ブルー用のデスク……という名の黒丸くんが用意した収納箱からおもちゃを取り出し遊びだすという始末。  ……あれ?よくよく考えると、普段からブルーって仕事してない気がする。  い、いや、きっと思い過ごしだ。  レッドさんや小金ちゃん、黒丸くんならブルーの暴走を止めたうえで自分の仕事をこなせるのだが、残念ながら僕は要領が悪くうまくできない。  黒丸くんとリーダーが戻ってくるまでずっとブルーの面倒を見ながら仕事をしなくてはいけなくて終業時間の5時を大幅に超えてしまったのだった。  黒丸くんがうちの事情を知っているから、残りの仕事を引き継いでくれたのだが……。  会社を出て電車に乗り、最寄りの駅から猛ダッシュで家に着いたのは8時59分。  門限まであと1分……いや、おそらく数秒。  あと少しで扉に手が届くっ!  そんな瞬間に  ―――ガチャリ  無慈悲にもぴったり9時となり、玄関の扉は僕の目の前で閉められてしまったのだった。
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