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白無垢だけではなく己自身も赤く染まった頃、ようやく女中は満足の笑みとともに手を止めた。
うっすらと闇が忍び込む向こうからは、花嫁行列の支度が着々と整う音が聞こえてくる。
「それでは、私もお嬢様の道中の供に参りますね」
その音に耳を澄ましながら、女中は手の中にある簪を己の喉元に据える。
ずっと女中の髪を飾り続けた簪は、はるか昔に娘が気まぐれで女中に払い下げた品だった。
甘い記憶の上に愛しい人の鮮血を塗り上げて完成させた凶器を自身に向けて、女中は恍惚の表情を浮かべたまま呟く。
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