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『それは災難だったねー』
「美澄ちゃん……!」って正座で泣いてるクマのスタンプが送られて来た。わざわざカスタマイズしてくれたらしい。
狙っていた品を買われてしまった私は今、悔しすぎて友達の未来に愚痴っている。
そうだよ。ほんと災難だったよ。交渉中なのに横からかっさらうの、止めて欲しいよ。
と打ちかけてたら、またなんか来た。
『……とか、言わないしね!』
ゴゴゴゴ……と背中に青白い炎を背負ったクマが来た。なんでだ。
「しねは酷いしね!」
『そんなこと言ってないしね。挨拶なんかしてないでさっさと落としなよ毎回』
入力の指が止まる。それを言われると、何も言えない。
『購入前にコメントするのは規則じゃなくてローカルルールだよ? そろそろ捨てたら? 大事に抱えてるトラウマ』
何も言えねえ。トラとウマがアホみたいな顔してるスタンプをじっと見る。
トラウマっていうのは、最初にネットフリマで物を買った時の事だ。
何も分からなかった私は、登録して検索して、出てきた商品に目を見張った。
欲しかった物が目の前にある。しかも、世の中古相場よりかなり安い。速攻で買った、出品者のプロフィールも何も確かめずに。取り引きは順調に行われた。で、最後の評価で私は、三段階の真ん中の「普通」を付けられた。
『スムーズなお取り引きありがとうございました。プロフィールに書いてありますが、事前に一言頂けていたらと思います』
驚いた私は、出品者さんのプロフィールを見に行った。おっしゃる通り、書いてあった。「別のサイトでも出品しています。購入前に在庫確認のコメントをください」、と。
普通の評価は、言葉こそ「普通」だが、ネットフリマの世界では「この人は信用出来ません」という烙印みたいなものだ。
初回からそれを食らった私は、その次からは念には念を入れて気をつける様になった。丁寧なコメント、こまめな連絡、感謝の気持ちが滲み出そうな御礼、迅速な評価。そんなことをしていると、ご挨拶をしている間にそれを見た別の人が品物を購入してしまう事がある。そのたびに悔しくて歯噛みしたけれど、対応を変えることはなかった。会ったこともない、見たこともない、知り合いでもってない人から低評価を付けられるなんて二度とごめんだ。マイルールはルールじゃないと言われても止められない。
取り引き数が二桁になって随分経つけど、「良い」以外の評価は、今も最初の「普通」一つだけだ。
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