第一話 その商品、生ものにつき

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「あらそう。じゃ、大きな荷物は宅配便で送ったほうがいいわね。ってことは、先にホテルの手配をしなくっちゃ」  そう言って再びパソコンを操作し始めた美沙姫を見て、父は笑った。 「美沙姫は母さんに似てしっかり者だね。でも、まだ十歳なんだからなんでもひとりでは決められないよ。宿の予約は父さんがするから。美沙姫は検索するだけにしなさい」  そう言われて美沙姫はむくれたが、自分がまだ子どもだという自覚はあったから、言われた通りいくつかの候補を画面に出すだけにしておいた。  その日の晩は、ベッドにもぐりこんでも、すぐには眠気が訪れなかった。 (待っててね! 商品は、私がしっかり届けるからね!)  オークションで商品が売れたことが、嬉しくてしかたなかった。だってその商品が落札されるということは、それを必要とする人がいるという証なのだから。  天井を見上げてあれこれ考えを巡らせる美沙姫の隣のベッドでは、父が安らかな寝息を立てていた。 *  ピンポーン。  時刻は夕方八時過ぎ。玄関の呼び鈴が鳴り、ダイニングテーブルでうとうとしていた有川梨枝(ありかわ りえ)はハッと目を覚ました。  1Kの奥の部屋から、一騎が飛び出してきた。 「母さん! きっとこれだよ! 荷物が届いたんだ、早く受け取ってよ」 「あ、えぇ、そうね……」  まだぼうっとした頭のまま梨枝は立ち上がり、シャチハタを手に持って玄関の扉を開けた。 「こんばんは。有川梨枝さんと、一騎(いっき)くんのお宅ですね? お届け物です」  アパートの廊下に立っていたのは、ひとりの男性。年齢は三十を少し超えたくらいだろうか。中肉中背というよりはやや痩せ型で、黒いフレームの眼鏡をかけた温厚そうな人物だ。だが、宅配スタッフには見えない。おなじみのジャンパーを着ていないし、なによりその手に荷物がない。  梨枝は戸惑った声をあげた。 「あのぅ、荷物は……?」  そう言われて、相手も戸惑ったようだ。 「あれ、一騎くんから聞いてませんかね? 荷物は、僕自身なんですけど……」
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