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「え? はい?」
何の冗談だろう、と思った梨枝を押しのけて、一騎が廊下に飛び出した。
「待ってたよ! おじさんがボクの『お父さん』になってくれる人?」
「あぁ、うん」
困ったように頭を掻く男性の後ろから、女の子が顔を覗かせた。一騎よりいくつか年長のようだ。
「そうよ! あたしのお父さん、一騎くんに貸してあげるわ。生ものだからね、返品は不可よ!」
一騎は、訪ねてきた男性の全身をしげしげと眺め「まぁちょっとやぼったいところはあるけど」と失礼なことを呟き、「でも時間がないからしょうがないよね」とひとりで納得してうんうんと頷いた。
「父兄スポーツ参観は明後日なんだ。協力してくれるよね?」
念を押す一騎に、男性はやわらかく微笑んだ。
「うん、協力するよ。でもその前にね、お母さんにきちんと事情を説明したほうがいいんじゃないかな」
一騎、男性、男性の娘とおぼしき女の子――三人の視線が梨枝に集中した。
「あ、あの……」
「えっと、有川梨枝さん。まずは、ちょっとお話をさせていただけないでしょうか?」
という男性の言葉に、梨枝は「はぁ……」とあいまいな返事をしつつ頷いた。
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