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第二話 借りてきたお父さん
一騎の通う小学校には『父兄スポーツ参観』という行事がある。
授業参観のひとつで、二時間コマを使って体育の授業を行いそれに保護者も参加するというものである。そして、多くの場合その参加者は父親だ。
「それで一騎くんは、父兄参観に来てくれるお父さんがいればいいと思って、『出張お父さん』という商品を落札したわけです。つまり、僕のことですけどね。いや、いつの間にか娘に出品されてまして、こんなことになっているわけですが。はははは」
啓貴は笑った。横から美沙姫が「もう、お父さんピシッとしてよ!」と太ももを叩いて来る。
一騎の母、梨枝は目をぱちくりさせていた。
年齢はアラサーと言ったあたりか。自然な色の髪をうしろでひとつにくくった、おとなしそうな女性だった。
「あの、つまり興山さんは、その日だけ一騎の父親になってくれる人、ということでしょうか?」
「えぇ、そうなりますね。もちろん、お母さんのお許しがいただければ、ということになりますが」
頬を膨らませた一騎が「お父さんはボクが買ったんだよ!」と抗議した。だから授業参観には必ず来てくれ、ということのようだが、母である梨枝の意志を無視して決めることはできない。
コーヒーカップに視線を落とし、梨枝は「正直、ちょっと困っています」とため息をついた。
「一騎がそんなことをしていたなんて知らなくて……ちゃんと履歴を確認していればよかったんですけど、時間がなくてついつい後回しにしてしまって。スポーツ参観のことも知りませんでした」
啓貴はゆったりと頷いた。
「驚きはよくわかりますよ。僕も、驚いているひとりですからね」
梨枝は少しだけ口元をほころばせた。
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