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第三話 子どもたちの主張
スポーツ参観の日は快晴だった。
五月の風がさわやかに校庭を吹き抜ける。グラウンドをぐるっと囲うように植えられた桜の緑が目にまぶしい。
「うん、合格かな」
一騎は啓貴の服装を細かくチェックした。曲がっていたポロシャツの襟にスチームアイロンをかける念の入れようだ。
「なによ。見た目なんかで、人の価値は決まらないわ。私のお父さんはカッコいいんだから!」
と言ったものの、有名スポーツメーカーのポロシャツに、きちんと折り目の入ったスラックス。いつも家でだらしのない姿ばかり見ている美沙姫には、今日の父親はなおさらカッコよく見えた。
「まぁ、形から入るってのも、アリね」
偉そうにあごに手を当てて評価する美沙姫に、ランドセルを背負った一騎が不思議そうな視線を向けた。
「みさきちゃん、学校は?」
「行ってるわよ。でも、ときどき休学するの。お父さんの取材旅行に一緒にいくために」
「取材?」
美沙姫は、よくぞ聞いてくれましたとばかりに胸を反らした。
「あのね、お父さんは売れっ子の小説家なのよ」
「ハハハ、売れてるのは一部でだけだよ~」
それを聞いて、一騎は「ダメだよ! クラスのみんなの前で、小説家なんて言わないでね」と叫んだ。
美沙姫は眉を吊り上げた。
「なによ、小説家がカッコ悪いって言うの?」
「だって、ちゃんとした職業じゃないっていうか、その……」
一騎は、啓貴の視線を気にしながらぼそぼそと呟いた。
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