第一話 その商品、生ものにつき

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第一話 その商品、生ものにつき

 有川一騎(ありかわ いっき)は、年齢に似合わない真剣な表情で、青白く光るノートパソコンの画面を見つめていた。もうかれこれ一時間以上になる。教科書だって、こんなに真剣に読んだことはない。そもそも一騎は、動画を見たりマンガを読んだりするより、外で体を動かすほうが好きな子どもだった。  でも今日は特別だ。一週間後のために、出来るだけよい商品を見つけなくては。  一騎が見ていたのはオークションサイトだった。ノートパソコンもアカウントも、一騎の母・梨枝(りえ)のものだ。母は生活雑貨や身の回りの品を買うために、よくこのオークションサイトを利用していた。隣で見ていたから、一騎もおよその仕組みは理解している。 (状態は良さそうだし、出品者の評価も悪くない。値段も良心的。うん、これにしよう)  初めてのお買い物。緊張して何度も画面の文章を読み返していた一騎だが、心は決まった。  慎重に矢印を動かして「入札する」ボタンをクリックする。  ふぅ。詰めていた息を吐き出した。なんだかスッキリとした気持ちでノートパソコンの電源を落として閉じる。電源が落ちたことを確認して、コンセントからコードを抜く。節約のためだ。  その時、玄関の鍵が開く音がした。一騎は壁掛けの丸い時計を見上げた。短い針は数字の六を過ぎたところに、長い針は数字の七を過ぎたところにあった。気付けば部屋の中は薄暗くなっていて、開かれた扉の向こうには赤紫の空が広がっていた。 「おかえり、母さん」  黒いヒールの靴を脱いでいた母は、少し疲れた顔で笑った。 「ただいま、一騎。すぐにごはんの支度をするわね。今日はオムライスよ」  母がいつも使っている仕事用の鞄の横には、近所のドラッグストアのロゴが入ったナイロン袋。一騎はその袋を持つと、冷蔵庫の前に駆け寄った。 「牛乳とか、冷やすもの入れておくね」 「ありがとう。あ、アイスもあるから。忘れずに冷凍庫に入れてちょうだいね」  ナイロン袋の底のほうから、棒アイスの箱が出てきた。一騎の好きなアイスだ。お風呂上がりに食べようと、それを大事に冷凍庫の端っこにしまった。
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