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【7月22日】虹の七色
空に虹がかかっているのを見ると、人はどうしても幸せな気分になるものだ。昼休み、うっとうしい雨と、退屈な授業から解放されてご飯を食べるこの時間、どうしたっていい気分になる。
「虹って何色だっけ?」
菜々子がサンドイッチをもぐもぐしながら、窓の外を見ながら、ひとりごとのように呟いた。
「虹は虹色でしょ」
「だから、何色?」
「え〜……」
目を凝らせば凝らすほど、虹はぼやけて、色がよく判別できない。
「赤……オレンジ、黄色、黄緑、青、紫……」
「六つ。あと一色は?」
「なんだっけ。なんか微妙な色なんじゃない?」
「微妙な色って?」
「朱色とか」
「朱」
どう頑張ってみても六色にしか見えない。
そのうち虹はぼやけて消えてしまいそうな感じになる。
「とあるアジアの国では、虹は二色なんだよ。赤と黒」
「赤はともかく黒はないんじゃないの?」
「それは人の感じ方次第だよ」
「なんだろう、水色? 七色め」
「緑と青の間?」
「うん」
「わたしはねー、きっとね、青と紫の間とにらんでるの」
「それって何色?」
「青紫」
そんなこと言い出したら、もうなんだってありな気がしてしまう。
「ていうか、虹っていうのは、光が乱反射してるんだから、それを七つに分けようなんていうのが、そもそも無理な話なんじゃない?」
「そうかもしれない」
「虹の足元ってなにがあるんだっけ」
「死体じゃなかった?」
「誰の?」
「さあ。でも北欧神話では、天にかかる橋とされてるよね。虹は」
「ふーん」
菜々子はずっと窓の外を見ている。
わたしが菜々子の方を見ていても、目が合うことはない。
「レインボーじゃん。虹って」
「そうだね」
「レインは雨で、ボーは弓ってことでしょ」
「そうだね。ボーガンとかね」
「てことは、あの真上にある何かを狙ってるってことなのかな」
「あーまあ、弓だとしたらそうだね」
「なにがあるんだろう」
「太陽じゃないの?」
「おー。それっぽい。じゃ、誰が狙ってるんだろう」
「神さまとか?」
「神さまが太陽を狙い落とそうとしてるの?」
「たぶん太陽が嫌いな神さまなんだよ」
そこで会話はいったん途切れる。
菜々子は急にわたしの方を向いた。視線がばっちり交差した。
「わたし、菜々子でしょ」
「うん」
「たぶん虹が出てる時に生まれたんだよね。だから、虹を見ると、なんか懐かしい気持ちになるの」
「ふうん」
「今度、虹が出たときに、一緒だったら、足元まで一緒に行ってみようよ」
「足元って?」
「一人じゃ怖いじゃん。どこかに連れて行かれそうで。ちゃんとこっちに引き戻してもらう要員」
ぜんぜん意味わかんないけど、菜々子は真剣そうな感じだったので、わたしはうなずいた。
虹はまだ淡く残っている。
「もし死ぬなら、あなたと一緒がいいな」
「やだよ。わたし菜々子の道連れになりたくないよ」
「じゃあ、ちゃんと手、握ってて」
さて、虹が消える。
菜々子の手の感触が淡く残っている。
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