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【7月17日】ドッペルゲンガー
朝起きるとわたしがもう一人いた。
「ぎゃあ! やられたー」
「やられた! ぎゃあー」
ふたり同時に心臓を抑えて倒れるのはさすがわたしだ。
わたしたちは同時に倒れ、同時に起き上がった。
「なんでわたしがふたりいるの?」
「なんでわたしがふたりいるの?」
「なんだよー」
「なんだよー」
○
というわけでわたしのドッペルゲンガーが現れた。
どうする?
→たたかう
しょうかん
まほう
どうぐ
にげる
「いや、何を召喚するんだよ」
「おお、さすがわたし。脳内までばっちりお見通しだね」
「てか、ドッペルゲンガーって見たら死ぬんじゃなかったっけ?」
「死んでないじゃん」
「死ね!」
「なんでよ」
「じゃあドッペルゲンガーじゃないんじゃないの?」
「あんたがドッペルゲンガーなんでしょ」
「ちがうよ~。あんたがドッペルゲンガーなの」
「違うっての!」
「違わない!」
「なんだとー」
「なんだとぅ~」
そうこうしているうちに朝出かける時間が。
「やばっ、学校行かなきゃ」
「ええ、学校行くの?」
「行くよ」
「ヤバ。真面目だな」
「ええ?」
「あたしだったら絶対行きたくないわ。自分がもう一人いるんだから、めんどうなことはそいつに任せて自分は家でダラダラしてるに決まってるじゃん」
「あっ」
「ま、わたしがやる気なら任せるわ。行ってらっしゃいわたし~」
「いや、それだったらあんたが行けよ」
「え?」
「同じわたしなんだから。どっちがいってもバレないよ」
「なんでわざわざ。ドッペルゲンガーのそっちが行ってよ」
「いや、ドッペルゲンガーはそっちだから。そっちが行って。本物はここでだらけてるわ」
「わたしのほうが本物ですぅ~」
「わたしが本物だ!」
「なにをう」
「なにを~?」
ぼこすか。
喧嘩しても、考えも力も同じなので永遠に決着はつかない。
「くっ。このわたしが!」
「この……わたしが!」
「へへ、やるじゃんか」
「わたしだからね」
「てか、わたしって意外とかわいいな?」
「え?」
よく見るとかわいい。
目の前のわたしを見ると……、よく見ると、普通にかわいい。髪の毛もきれいだし、顔立ちも整っているほうだし、目は大きいし。小顔だし。スタイルだって、そんなに悪くないし。
「えい!」
「ひゃあああ! 何すんの!」
「いや、わたしの胸の大きさを確かめようと」
「自分のでやれ!」
「目の前にあるから!」
「ふんっ」
むんずとドッペルゲンガーがわたしの胸をわしづかみにする。
「ひゃあああ! 何すんだよ!」
「仕返し!」
すると、目の前のわたしはいきなり自分の胸をさわさわし始めた。
「うん……なんか、自分で触るよりも大きい気がする……!」
「でしょ!?」
「さてはわたし! 意外とかわいいな?」
「かわいいんだよ」
「ちょっと、ヘアセットとかしてあげるよ。わたしがやったら、わたしがもっと可愛くなるから」
「それはやってくれるの? ドッペルゲンガーなのに」
「バカじゃないの? あたしがドッペルゲンガーにセットしてあげるの。練習よ練習、あんたはマネキンみたいな感じなの」
「違うし~。わたしが本物だし~」
とは言いつつも、ご相伴にあずかることに。
わたしを鏡の前に座らせたわたしは、見る間に髪の毛を梳き、校則違反にならない程度にセットしていく。
「うん、なかなかいいのでは」
「さすがわたし」
「そんじゃ、あんた学校行って来てね」
「うん。なんか自己肯定感上がったわ。ありがとう、わたしのドッペルゲンガー」
「違うっての。あんたがわたしのドッペルゲンガーなの」
「もうどっちでもいいや。わたしはわたしだから。わたしがドッペルゲンガーでも、いまかわいいからすごく満足だよ」
「あっそう。よかったね」
「うん、よかった。それじゃあ、行ってきます」
「いってら~」
さて、帰ったらドッペルゲンガーは消えていたけれど、いったいどこに行ったのだろう。
やっぱりわたしが本物だったんじゃん、と思いつつも、また会いたいなあと思った。
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