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【7月19日】日傘の君
今日はひさびさに晴れた。
遅い梅雨の時期から解放された青空。
少しじめっとしてはいるけれど、それでも風が吹き、なにより太陽が心地よい。
わたしは布団をベランダに干し、ひさびさに散歩をしようと外に出た。
日差しが強く、思った以上に暑い。
しかし同じように出歩いている人も多い。みんな、雨にはうんざりしていたのだろう。
信号待ちをしていると、隣に日傘を差した女の子が並んだ。
やたらと背が低くて、たぶん小学生くらいに見えた。紫紺の日傘に遮られて、顔や姿は詳しくわからない。それを見下ろすことができるくらいには、わたしよりも背の低い子だった。足元には小さな革靴を履いているのがかろうじて見えるくらいだった。
日傘がせわしなく揺れている。時々くるくると回ると、フリルが風邪に靡いて洒脱な影をコンクリートに投げかける。時刻は正午を回りそうだ。
信号が変わった。
横断歩道を渡るとき、その子は白い部分だけをひょいひょいと踏んで歩いた。歩幅もわたしよりずっと小さい。渡った先で、わたしは右に曲がり、その子は真っ直ぐ歩いていった。
とこ、とこ、とこ、とこ。
歩くときにそんな音が聞こえてきそうな気がした。
結局顔が見えなかったので、わたしは歩きながら日傘の子のことを考えた。いったい何歳くらいなのだろう。いや、そもそも男の子かもしれない。フェミニンな服装をしているだけで。実はかなり高齢なおばあさんかもしれない。小さい子が日傘を差しているのは、珍しい気がする。なにか理由があるのだろうか、たとえば、肌が弱いから日光をあんまり浴びたくないとか。それともお母さんか、親戚の人かが日傘を差しているのに憧れて背伸びをしているのだろうか。
今日は暑いな。
せっかく外に出られたし、わたしも日傘を買おうかな。
わたしは日傘の子のことをずっと考えていた。梅雨明けがだんだん近い。
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