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【1月5日】似顔絵
くもった窓ガラスに人差し指であなたの顔を描いた。
あなたの顔を思い出しながら。
あなたの顔は小さくてまるい。
あなたの目は茶色で大きい。
あなたの鼻はすっと高い。
あなたの前髪はいつも一房、目と目の間に垂れている。
あなたの耳は小さくて、右側にだけ穴が開いている。
あなたの口はいつも笑っている。
あなたの頬は柔らかくて白い。
あなたの輪郭から外の景色が見える。
きらきら光り、輝いている。
あなたを見ていた時とおんなじ。
まるであなた。
少しずつ水滴が窓を伝ってこぼれていって、
あなたの似顔絵が崩れる。
あなたの声を聞いたことはないけれど、
あなたと話したことはないけれど、
あなたに出会ったことはないけれど、
あなたの名前も知らないけれど、
いつからかあなたのことが大好きでした。
水があなたを壊してしまうまえに、
手のひらであなたの顔を消した。
次はまた明日、笑っているあなたに会いたい。
△▽△▽△
つもった雪を指先でなぞって、きみの顔を描いた。
きみの顔を思い出しながら。
きみの顔は少し細長い。
きみの前髪はいつも長い。
きみの目はいつも隠れているけれど、
とっても大きな夜空みたいな色。
きみの鼻は小さい。
きみの耳はすこし大きい。
きみの口はいつも固く結ばれている。
きみの顔はいつもおんなじ。
きみは窓を、写真を、本を、思い出を見ていて、
こっちを見てくれたことは一度もない。
きみの素敵な声も、きみの笑顔も、きみの涙も知らない。
きみの輪郭から、アスファルトに貼り付いた氷が見える。
きらきらして透明で、冷たい氷。
きみの顔は映らない。
氷の下には黒いアスファルトがあるだけで、
きみはそこにはいない。
手のひらで雪をざっとかき集めて、似顔絵を消した。
次はちゃんと、きみと向き合いたい。
好きだよ、愛してるよって言ってほしい。
似顔絵じゃなくて、ほんとうのわたしに。
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