第一章 寵愛の引鉄

3/3
前へ
/3ページ
次へ
「誰にやられた」 先生は私の腕を掴んだまま 咽喉から静かな憤りの声が霧のように洩らしていた。首を横に向け噤むんでいるが、先生の威圧感は普通と違って、漆黒に包まれていたもので、黙ることが余計に難しい。 「…………覚えてないです」 「白を切るつもりか?」 無言続きの彼女に観念したか、桐生も黙って制服を渡した。そして彼はふと、背中に目がいき手を伸ばす。 「おい鷹嫻、背中に痕が…殴られたの……」 話を遮り、瞬時に彼女は桐生の手を勢いよく振りほどく。 「触らないで!!!!!!」 常に冷静な彼女が目の瞳孔を揺らしながら、動揺していた。 「……悪い」 「この事は内緒にして下さい、私も黙ります」 「でも誰かにやられたんだろ?これは上に報告すべきだ」 「そんな事をしてしまえば、この学園に捜査員が押し寄せて来ますよ。父は憤怒に満ちている事だと思います。私は面倒臭いことが嫌いなので」 「生きづらくないか_______________」 本当にこの先生は不思議だ、教師として正しいことをしているのに、何処か非道を犯しているような気がする。先程の威圧感も一般人が出せるものでは無い、。そして何よりその威圧は私がよく知っているモノに似ていること。 教師が私に情を移すと、ろくな事がない。だから私は、助けてもらいたい気持ちを押し殺して、心を閉ざす。それが一番互いの平穏に繋がるから。 「いいえ、鷹嫻家の人間として私は何不自由なく生きさせて貰ってるんです。では私はこれで失礼します。今頃SPが私を探していると思うので」 「待て鷹嫻!」 ___________桐生先生、私は先生が思ってるような _______________純粋で孅い女じゃないんですよ 警視総監の娘で、全て道理的に育てられ。非道なものは全て排除され、純正な人間しか接触する事を許されず、常に完璧であることを求められた。然し出逢は唐突で、私は初めて非道というものに出会った。心が痺れるほど、胸の鼓動が止まらないほど 目を輝かせていた。私は忘れられなかった非道を、身近に置くことにした。部屋の本棚の裏にある隠し扉。私しか知らない秘密の部屋。私は深夜この場所に消える。そして私は狂うのだ この部屋中に広がる、煙草の香りと鉄の匂いをスーッと嗅ぎ、満足する。束ねていた髪を解き、漆黒の髪を掻き上げると、顔つきが変わる。紅い唇が似合う蠱惑的な女。 「嗚呼、どいつもこいつも屑ばっかなのよ」 優雅にガンプレイをし、バスローブを脱ぐと 彼女の背中は鮮やかであった。 「_______________…ヤクザになりたい」 部屋一式、ヤクザによる抗争の写真と立派な刀と銃が揃っていた
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

75人が本棚に入れています
本棚に追加