第一章 寵愛の引鉄

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「絵に才ありか、」 と呟く先生は、彼女の絵をまじまじと見つめていた 「あまり近付かないで下さい。昨日の出来事忘れたとか言いませんよね」 彼女は技巧の如く、鉛筆を滑らせるように龍を描いていた。龍の鱗は細かく筆触していた、再現度は高くまるで本物の龍を見た事があるかのようだった。華奢な彼女が龍を描くとは、他の者と違う魅力をゆ有していた。 「何故肖像では無く、厳つい龍なのか?」 「理由が必要ですか」 「理由なく、描いてる訳じゃないだろ?」 桐生の言葉に、祈莉は顔を顰めた。数秒間を置いてぽつりと呟いた言葉を桐生は聞き逃さなかった。 「単に好きだからです、縛られることの無い強さを持ち合わせてる龍は私にとって……」 長く語り過ぎたと感じた彼女はハッと我に返り、黙々と絵を描き続けた。桐生も他の生徒に呼ばれた為、祈莉から離れるが、彼女の切ない表情は横目で確認していた。 「(____________……憧れか)」 ・ ・ 夕暮れ時に生徒達が帰宅する中、職員室にて資料を机に広げて、頁を捲る。 「鷹嫻祈莉………成績は常にオールA、卒業後は都内の有名校法学部希望」 すると隣のクラスの担任である星野先生が桐生に気になったのか、資料を覗いて話に入る 「鷹嫻さん凄いですよね、資産も申し分ないのに、常に成績はトップですから。」 「そうですね、然しもっと愛想が合っても良いかと俺は思うのですが」 星野は何かを恐れたのか、そっと桐生の耳に静かに告げる 「あまり鷹嫻さんには近付かない方が宜しいですよ昨年彼女の教師だった者が、生徒思いで鷹嫻さんに寄り添っていたんですが…SPの方がどうやら鷹嫻さんのお父さんに報告したらしく、結果その教師は半年で解雇になりました」 「たったそんな事でですか?」 「ええ、私達は鷹嫻家に逆らえないんです…幸い鷹嫻さん自身も人と関わること無く、自分で行動するので助かってはいます」 「幸い、という言葉を付け足すのは些か冷たい人間だとは思いませんか星野先生」 「え、然し桐生先生?本当に大変な事になるのですよ、この学園で解雇されてしまえば二度と教師の仕事に就くことは出来ないのですよ?!」 「其れでも、彼女は俺の生徒です。彼女がお偉い身分だとしても、彼女もまた人間です。俺は見捨てる事なんて出来やしません。」 資料を閉じて、鞄を持ち部屋から出る。 扉を開けると、目の前には噂の鷹嫻祈莉が立っていたが、彼は双眸を大きく開けて、三毛に皺を寄せた 「鷹嫻……お前」 「制服貸してください」 制服が透けるほどに、ずぶ濡れになる彼女。外は雨が降っていない。意図的にやったものでもない。つまり誰かにやられたものだと察する。さり気なくトレンチコートを肩に被せ、腕を掴む 「こっちへ来い_______________」
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