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夜が怖くなくなったのはいつからだろう。
生い茂る夏草に身を潜め、柊修一は、額の汗を手の甲で拭った。
(もう、ここに来ることはないと思ってた)
そこは県境の山中だった。
前に来たのはいつだったか。修一は小学生の当時を思い出す。
野鳥を追っているうちに迷って日が暮れた。来た道も分からなくって、不安と絶望に襲われて、大声を上げて泣いていた。ぐるんと視界が回って、意識と記憶は途切れ、気づくと両親が心配そうに修一の顔を覗き込んでいた。
(……ここは?)
気が付くと、自分の部屋のベッドだった。
「無事でよかった」
母に抱きしめられながらの安堵と困惑。思考が追い付かない。
傍らに立っていた父が、怒っているような安堵したような表情で、ため息交じりにつぶやいた。
「近衛さんが、お前を背負ってきてくれたんだ」
近衛さんて誰だっけ。苗字だとピンとこなかったけど、学のお父さんか。たまたま山菜を採りに、山に来ていたとのこと。
あの時もちょうど──お盆が過ぎた頃だっけ。
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